『モンスター』の台頭
第57話「新分類『モンスター』」
森を切り拓いて作られた土地に、木製の家々が建ち並んでいる。
どれも年季が入っているが、朽ちかけている印象はない。古いながらも、つい最近まで人の手が入っていたのがわかる状態だ。
大陸の各地で見られる一般的な開拓村の様子だが、一点だけ、とてつもない違和感があった。
打ち捨てられた村というわけではない。それは家々の様子からもうかがえる。
では、なぜ人がいなくなってしまったのか。
それは、現在この村の中で緩慢に動き回っている、人に似た何かのせいだった。
「【
その何かに、光の魔術の矢が突き刺さる。
撃ったのは冒険者パーティ【アウクシリア】のリーダー、フランチェスカだ。
「さて。こっちは今ので最後だけれど……。他のみんなは大丈夫かしら」
◇
元六つ星の冒険者パーティ【アウクシリア】は、この滅んだ開拓村でとある討伐依頼を受けていた。
討伐対象は【グール】。
人の生き血を啜る恐ろしい魔獣、いや、『モンスター』だ。
あの日、龍が倒された日から、この世界は少しずつおかしくなっていった。
いやおかしくなったのはもっと前、特級ダンジョン、フォールドが生まれた時からだろうか。
フランチェスカの故郷であるプリムス王国は大陸同盟から脱退し、大陸の全ての国と敵対する道を選んだ。
龍が現れたことで、各国がプリムス王国から手を引いた、その隙に国境の防備を固め、同盟からの干渉を跳ね除けることに成功した。
その後、プリムス王国の外でも、フォールドの【燃え盛る悪夢】や【燃え盛る絶望】にどこか似通った、これまでにない新しい魔獣が現れ始めたことで、他国も同盟も冒険者ギルドも、プリムス王国に手を割く余裕を失っていた。
依然、それらの新魔獣をネグロス・ヴェルデマイヤーの手によるものだと考えていた大陸同盟は、フォールド誕生以降に現れた新魔獣を魔獣ではない新しい分類の『モンスター』と呼称することを決め、心してこれらに対応するよう加盟国や冒険者ギルドに通達した。
結果的にプリムス王国と各国の間で奇妙なバランス状態が保たれることになり、半年が経過した今でもそれは変わっていない。
フランチェスカ率いる【アウクシリア】は、プリムス王国上層部への不信感から王国から亡命し、大陸同盟に庇護を求めた。
その結果、王国の計らいで与えられていた六つ星は返上することになり、現在は四つ星のパーティとして日々依頼をこなしている。
現在、滅んだ開拓村で受けているのもそうした依頼のひとつだ。
この村を滅ぼしたのは、新たに発見されたモンスター【吸血鬼】である。
【吸血鬼】は、たった今倒した【グール】と同じく人の血を啜る化け物だが、その見た目はたいそう美しく、人間そのものに見えるという。多少、肌が青白く不健康に見えるそうだが、黙って佇んでいるとほとんど人間と見分けがつかない。
肌以外だと、その瞳が血のような赤色をしていることと、犬歯が鋭く伸びていることが特徴だそうだが、これも、一般人の中にも似たような特徴の者もいなくもないため、識別が非常に難しいと言われている。
そもそも、吸血鬼に出会った者は今のところほとんどが死ぬか【眷属化】されているため、吸血鬼に関する情報は極めて少ない。
このモンスターについて特に危険視されているのがその【眷属化】で、吸血鬼に血を吸われ死亡しなかった人間は、モンスター【グール】となってその吸血鬼の眷属になってしまうのだ。
【グール】という名も、【吸血鬼】から逃げ延びたわずかな生き残りが、【吸血鬼】
本人がそう呼び捨てていたという証言をしたから認定された経緯がある。
そのグールによって血を吸われた人間もまた、新たなグールとなって別の被害者を生む。グールは吸血鬼と違い、鋭く伸びているのは犬歯だけでなく全ての歯なので、血を吸う過程で必然的に被害者の損傷が大きくなり、被害者はグール化する前に死亡するケースが多いことが救いといえば救いだろうか。
たった一体の吸血鬼が現れただけで、いくつもの村や町が滅ぼされている。その理由は、被害者がグールとなり被害を拡大することにあった。
先に述べた通り、【アウクシリア】が受けた依頼は、この開拓村のグールの討伐である。
吸血鬼の戦闘力は非常に高いとされているが、グールの戦闘力はグール化前の人間の身体能力に依存するため、討伐はそれほど難しくはない。心理的な障害を除けば、であるが。
プリムス王国が同盟から脱退した影響で、元プリムス王国所属だった冒険者は肩身が狭い。王族の末席にいたフランチェスカは特にそうだ。
ギルドからの信用を取り戻すには、他の冒険者が嫌がるようなこうした仕事も積極的にこなしていかなければならない。
グールはどうやら光属性の攻撃に弱いらしく、【光魔術】を習得しているフランチェスカには相性のいい相手なのが救いだろうか。
これまで【光魔術】の攻撃魔術は、速度こそ全魔術中トップだが、その威力は他の属性に比べて低めなのがネックだった。【光魔術】を習得する者のほとんどが回復魔術のためだ。
フランチェスカもそうだったが、回復魔術に対する適性が低く、最低限の治癒しかできない有り様だった。代わりに攻撃魔術は得意だったが、【光魔術】では攻撃力も知れている。
グールの出現により、攻撃力の低い【光魔術】にも大きな価値が生まれることとなった。
だからといって、元は人間だった者を積極的に攻撃したいわけではないが。
「……嫌な時代になったものだわ。本当に……」
★ ★ ★
半年の間に、大陸中でいったい何があったんでしょうか。
まさかまたネグロスが暗躍しているんでしょうか。怖いですね。
いつも暗躍してんなあいつな。
【エルフの吸血鬼】
召喚コスト :闇闇闇無
攻撃力 :150
耐久力 :150
カテゴリ :【エルフ】【吸血鬼】【アンデッド】【女性】
特殊能力 :
【覚醒】
〈アクティブ〉このカードが手札または安置所にある場合、自分フィールド上の『グールカウンター』がふたつ以上置かれているクリーチャーを安置所に送ることで、このカードをコストを無視して召喚することができる。
【吸血】
〈アクティブ〉一ターンに一度、相手フィールド上のクリーチャー一体を対象に発動できる。そのクリーチャーにこのカードの攻撃力分のダメージを与え、与えた数値分自身の耐久力を回復する。その後、そのクリーチャーに『グールカウンター』をひとつ乗せる。そのクリーチャーがカテゴリ【エルフ】を持っている場合、追加で『グールカウンター』をもうひとつ乗せる。この特殊能力を発動したターン、このカードは戦闘できない。
【眷属化】
〈パッシブ〉このカードがフィールド上に存在する限り、このカードの効果によって『グールカウンター』を置かれたクリーチャーは、このカードのコントローラーがコントロールを得る。
〈パッシブ〉『グールカウンター』が置かれているクリーチャーは、特殊能力が無効になり、【吸血】【日光脆弱】を得る。
【日光脆弱】
〈パッシブ〉カテゴリ名に『光』『陽』を含むカテゴリを持つクリーチャーとの戦闘ダメージ、特殊能力によるダメージ、マジック、アイテムカードによるダメージを受けた時、その数値が倍になる。
──エルフが吸血鬼となり、数百年生き延びた個体。「親」の支配から逃れ、自我を獲得することに成功している。一般的に吸血鬼化すると美しくなると言われているが、中でもエルフの吸血鬼は格別である。
【ネームドテスト一号ちゃん】
召喚コスト :なし
追加コスト :【エルフの吸血鬼】のロスト
攻撃力 :150
耐久力 :150
カテゴリ :【ネームド】【エルフ】【吸血鬼】【アンデッド】【女性】
特殊能力 :
【吸血χ】
〈アクティブ〉一ターンに一度、相手フィールド上のクリーチャー一体を対象に発動できる。そのクリーチャーにこのカードの攻撃力以下の任意の数値のダメージを与え、与えた数値分自身の耐久力を回復する。その後、そのクリーチャーに『グールカウンター』をひとつ乗せる。この特殊能力を発動したターン、このカードは戦闘できない。
【眷属化】
〈パッシブ〉このカードがフィールド上に存在する限り、このカードの効果によって『グールカウンター』を置かれたクリーチャーは、このカードのコントローラーがコントロールを得る。
〈パッシブ〉『グールカウンター』が置かれているクリーチャーは、特殊能力が無効になり、【吸血】【日光脆弱】を得る。
【日光脆弱】
〈パッシブ〉カード名、または所持カテゴリ名に『光』『陽』を含むクリーチャーとの戦闘ダメージ、特殊能力によるダメージ、マジック、アイテムカードによるダメージを受けた時、その数値が倍になる。
──【ネームド】を持たないクリーチャーを召喚したあと、個体識別のための名前を付けたらどうなるか、という黒狼の実験により生まれた【ネームド】クリーチャー。実験は成功し、カテゴリに【ネームド】が追加され、召喚に関する項目が消えた。【ネームド】化するメリットは特に無さそうなため、「やったぜ。成し遂げたぜ」という満足感のみが残された。
例によって黒狼から放逐されたため、今は大陸中で好きに血を啜っている。
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