風邪引きその後
「なあ、×××。ちょっとした悪戯みたいなもんだって、俺が不器用なのが悪いけど………なあ、おいってば。話し聞いてくれよ」
「……………」
「お父さん、ご飯たべて」
「七海いいから黙ってくれ。今大事な事を話そうとしているんだ」
「お父さん、だまって、ご飯、たべて」
「はい」
藤原は出された食事をかき込むようにして食べる。
急いでいた。
そうしなければ姪と話しが出来ないと思って急いだのだ。
けれど、食べ終わったら終わったで――
「お父さん、おふろ、入っちゃって」
「………話しさせる気がないだろ七海ぃ」
「お父さん、おふろ、入って!」
「分かったよ!」
帰宅した七海が見た光景は一生忘れないだろうと思われる。
ボタンが弾けて着る事も出来なくなったようなパジャマを身に着けた×××。
お陰で七海は額に手を当てて、残ったはずの父であるはずの叔父を恨んだ。
もう絶対に二人きりに何かするものかと思ったほどだった。
それでも叔父はダラダラと時間をかけて自室と居間を言ったり来たり。
何とかして姪に話しかけようとしているのだった。
だから七海は叫ぶ。
「お風呂おおおおおお」
「分かったよ!なんだってんだよッタク!」
帰宅して思ったが、あれは野獣だ。
パジャマがぐちゃぐちゃになっているし、部屋は汚くなってるし、なるべく片付けたんだけどと言われれば仕方ない。
だってお父さんポンコツだものと七海も言う程。
お母さんが死んじゃってから、ずっと七海を放置してきて、我慢させてきて、更には×××にボーコーしたに違いないんだから。
パジャマビリビリだった!
と、勝手な想像だけで七海は父を許すマジと怒っているのだった。
カポーン、桶が浴室で音を奏でる。
それにつられたようにして、×××は言うのだ。
「はあ、お風呂やっと入ったねえ」
「うん。お姉ちゃん、大丈夫?」
「ううんと、あんまり。それと、有難うね」
守ってくれようとしてくれているのは分かるので、感謝を捧げる。
姉として慕ってくれているのは分かるので、×××は七海が大好きだった。
勿論叔父――藤原凌士のことも好きは好きだが、風邪引きで倒れている時のデリカシーの無さから、そういった好意が随分とマイナスに急降下している。
ぶっちゃけ、有り得ない。
服を脱がして背中を拭いてくれるまではいい。
此方にぬれタオルを渡して自分でやらせてくれたらもっと良かった。
けれど、叔父は出来やしないくせに、自分で拭いてやるからと言って×××の身体を全身拭いてきたのだ。
下着の中まで手を入れて来ていたら通報案件だったのに、とも思う。
別に厭らしい手つきじゃなくて、ガシガシ拭われただけだからいいんだけど、なんだか納得がいかないし、腹も立っている。
せめてもう少しばかりこちらに配慮を見せてくれたらいいのにと、いつも思うのだ。
「ねえ、どう思うお姉ちゃん」
「なあに、七海ちゃん」
七海の頭をそっと自分側に抱き寄せる×××。
テレビを見る時はソファに隣同士並んで座り、この頭を抱えられるこの姿勢が定位置だったりする。
何だいと聞いて見れば、お母さんになって欲しいと言うのだ。
正直言おう、今の叔父を見るとぶっ飛ばしたくなるから無理だ。
だが、七海の母親にはなってやりたいと思う。
難しいところである。
瘤付きじゃなければなあと思う。
この場合の瘤は叔父である。
叔父の背丈は185センチくらいの大柄で、まだ150センチ少々しかない×××からすると、とても羨ましい体躯だ。
未だ成長期が来ない×××に、七海はお母さんだったらいいのにと重ねるように言ってくる。
「私もだよ、お母さんになりたい」
ただし藤原凌士、テメーだけは許さねえ。
アニメを見ながら七海を抱え、×××は一人ごちるのであった。
「七海、引き取っちゃおうかなあ」
「駄目だぁあああああああああああ!七海を連れて行くなあ!」
「叔父さん、服を着てください」
後、どれだけ地獄耳何ですか、怖すぎます。
×××と七海は、自室の中と居間をその後、調べまくったと言う。
「ありませんね、盗聴器」
有るわけないだろうとの叫びを無視して、調査は夜半過ぎまで続いたと言う。
*****
絶対信用しないウーマン二人\(^o^)/
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