叔父と姪
ゆう/月森ゆう
あなたの淹れたコーヒー
コーヒーを入れるのは俺がやるから、そんな風にいつも言われていたっけ。
そんなお陰で、コーヒーを淹れて貰うことにすっかりとなれたある日のこと。
自分が久しぶりにコーヒーを淹れることになった。
人様の自宅に行って、そこで昼食を振る舞うことになったのだ。
そのついでにコーヒーも淹れることになったと言うわけだ。
普通は客ならば何もしない方がむしろいいだろう。
それこそ上げ善据え膳だろうが、逆に招待した方が食事を作って欲しいと強請ってきたのである。
相手は親友となれば、致し方なし。
親友から作ってと言われ、自分もまあいいか作ってやろう、などとそんな程度。
特に不平不満も出ずに冷蔵庫にある材料で昼食を準備し、用意が出来た。
食事はまあまあと言った所か、満足して貰えたようで良かった。
良い食材が揃っていたから大分満足の行く料理が作れたのだが、勝手にこんなに使って良かったのかと若干心配になるほどだ。
――とは言え、いつもは使えない食材も使えたお陰で中々に楽しかったのも事実。
そして食後、コーヒーは本当についでだった。
コポポ・・・コポポポ・・・・
コーヒーメーカーから抽出した黒い液体が零れ落ちる。
見よう見まねで淹れたコーヒー。
美味しいのかは味の保証が出来ないが、一応淹れてみる。
だって飲みたいって言われたから。
淹れたばかりのコーヒーを持って行き、親友に手渡した。
それを一口含むと目を見張る親友に、お、美味くいったかな?などと思う。
けれど自分で一口含めば、もう飲みたいと思わなかった。
美味しくないぞ、何で?
「コーヒーも淹れられるんだなって思った。マジソンケーするわ」
「そうかな?このコーヒー不味いでしょ。ごめんね。味も風味もいまいちで。あまり美味しくなかったね」
心底申し訳なさそうに謝罪をされれば親友の方も困り果てる。
けれど正直、悪かったなあと思ったのだ。
自分自身、いつも美味しいコーヒーを飲んでいるから分かるのだが、これはあまりにも美味しくない。
けれど飲まされている方はと言えば、そんなことはないと首を振るのだ。
「いや、マジで美味いって!あーしを信じろ!」
「そうかなあ?風味も味も・・・・そっけもないって言うか。正直に言ってくれて構わないんだよ?」
「んだよ、お前はー!もーーーー、あーしの言う事を信じろっての!」
「だって、これ不味いもん・・・・」
「はあああ?これのどこが、不味いって?お前の味覚、だいぶ肥えてない?あーしこれマジウマーって思ったけど?」
はあ?
「私の味覚、肥えてるかなあ?」
「違うって言うのかなあ?このコーヒー、だってインスタントのコーヒーよか、余程美味しいよ?だから不味いとか言わないっつーの」
ああそうかと一人納得する。
「叔父さんのコーヒー、美味しいんだよね。毎日・・・・・って言っても、居る時だけだけどさ。淹れてくれるから」
「へえ~・・・・結構家庭大事にしてる人何だ、あの叔父さん」
意外そうに言われる。
確かにあの叔父は、家では何もしそうに見えない。
雰囲気から行っても所謂亭主関白タイプと言ったところだ。
おいと言えばお茶から新聞まで全て用意されていそうにさえ見える。
「かな?・・・・・それでさ、私にもコーヒー淹れてくれるの。毎日。それが美味しいんだよ。だからかな?その味に慣らされたって言うか・・・・・・他のコーヒーが飲めなくなったって言うか・・・・」
叔父に引き取られてからもう、2年か。
その間毎日のようにコーヒーを淹れられていれば嫌でも味は慣らされるというものだろう。
だからだ、と言う私に、親友は呆れたように言うのだ。
「ならされたって、何か意味シーンジャーン」
「んー・・・・兎に角!あのコーヒーが美味しいのがいけないんだよってこと!」
だって、毎日美味しいコーヒーを淹れられていれば、当然だけど他のコーヒー何て飲めなくなるよ。
帰ったらコーヒーを淹れて貰おう。
そうしよう。
「あんたさあ、ちょっちゼータクになったんじゃねーの?それ」
「あんたが言うか、それ」
もう一口ごくり、嚥下する。
駄目だ、本当に舌が受け付けないのだ。
もう叔父が淹れてくれたコーヒー以外飲めないな。
苦笑はするが本当にそうなんだから仕方ない。
肥えてしまった舌を満足させるには、あのコーヒー以外ないのも事実。
だから、あの叔父にはせいぜい舌を満足させるコーヒーを淹れて貰おうじゃないか。
「叔父さんの所為なんだから・・・・・ね」
ああ、本当に不味い。
*****
お気づきの方いらっしゃるかと思いますが、これは×××が都心に戻った後の話です。
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