15. Story.2 ~【青い春の風】~③
15. Story.2 ~【青い春の風】~③
今日は金曜日。周りのクラスメイトは明日からの休みの予定などを話して楽しそうにしている。でもあたしは違う。また週末がやってきてしまう。そんな感情だ。明日は小鳥遊先パイの家に泊まって日曜日に【青い春の風】を実演する予定だ。
だから、今週も週末のことも考えると憂鬱な気分になる。
そのせいで授業中だというのについため息が出てしまう。すると隣の席の水瀬さんがこちらを見て笑った。
そして手招きしてくる。なんだろう?
「凛花ちゃん」
水瀬さんの口元に耳を寄せると彼女は小さな声で話しかけてきた。
「ねえ、授業のあとちょっといい?」
「どうしたの?」
「今は話しづらいから授業終わったらね?」
そう言って先生の方へ向き直る。なんのことかわからないけどとりあえず了承しておくことにした。授業が終わって水瀬さんと誰も来ないであろう校舎裏にいく。
「それでどうしたの?水瀬さん?」
「うん……あのさ、私ってば、昨日告白されたんだよね……。」
「えっ!?」
予想外だった。だってこんなに可愛い子なのだから彼氏くらいいると思っていたからだ。それにしてもいきなりすぎる!というか、なぜあたしに相談するのだろうか?確かに相談には乗れるかもしれないけどあたしなんかよりも適任がいると思うんだけど……。
「それで?相手は?」
「一つ上の先輩。よく知らないんだけどさ……。問題はその先輩……女の子なの。」
マジ?そんな【日向に咲き誇る】や【青い春の風】の小説のようなことって、こんな身近に起きるもんなの!?いやまあ創作の世界ではあるけれど実際にあるとは思わなかった。
しかも水瀬さんってば美人だし、性格もいいし、頭も良い。これはモテて当然だと思う。もちろん女の子にもね。
「あのさ凛花ちゃん。私どうしたらいいと思う?」
「え……。ごめん。わかんないかなぁ……」
「そっか……。」
何とかしてあげたいけど、状況が特殊すぎる!!いや待て待て。もしかしたらあたしが知らないだけで、こういうケースって多いのでは?
「あのさ水瀬さん。なんであたしに相談してくれたの?もしかしてあたしが女の子好きと思ってるとか……?」
「え?違うの?凛花ちゃん。部活動の小鳥遊先輩の事好きだと思ってたけど?」
はい?小鳥遊先パイのことが好き?どういうことだろ?全然理解できないんですけど。
確かに小鳥遊先パイは素敵だとは思うけど、それは憧れであって恋愛感情はないはず。ただの憧れだ。そうただの憧れだ。大事な事だから二回言わせて!
でも……本当にそうなのかな?そう思った瞬間に顔が熱くなる。多分赤くなってる気がする。だって自分でもわかるから。心臓の音が大きくなっていくのを感じる。この気持ちは何だろう? でも今はまだ気づいてはダメな気がする。
それにあたしは今、新堂凛花なのか真野夏海なのかわからないんだもん……。
水瀬さんに誤解されているなら解かないと。それから水瀬さんに説明をした。もちろん恋愛感情は無いと。そして好きな人はいないとも伝えた。
すると彼女はほっとしたような表情を浮かべていた。よかった、安心させれたみたいだ。これで水瀬さんの力になれるといいな。
「そっか、ありがとう凛花ちゃん!」
「ううん、大丈夫だよ。力になれなくてごめんね。」
「ううん、こっちこそ変なこと聞いてゴメンね?」
「別に気にしないよ?それじゃあ部活の時間だから行くね」
そう言ってその場を後にした。部室に入るといつも通り小鳥遊先パイがいる。明日からの打ち合わせを行い、あとは世間話をする。その間あたしは小鳥遊先パイの事が気になって、話が上の空になることが多かった。
そして帰り支度を済ませ、部室を出ようとした時、小鳥遊先パイに声をかけられる。
「凛花。あなた部活中ずっと私の顔、特に唇を見ていたでしょ?もしかして私とキスでもしたくなった?」
「………。してもいいんですか?」
「え?」
思わず口から本音が漏れてしまった。だけど、もう止められない。ゆっくりと小鳥遊先パイに近づく。彼女の綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。そして顔を近づけていく。もう少しで触れると思ったその時、あたしの意識は現実に引き戻される。
「あっ……。違います!これはその……すいません!さよなら!」
「凛花……。」
最悪。あたしはもう訳もわからずその場を走って逃げることしか出来なかった。
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