2話(1)

「暇だねぇ……」


 「そうですね、先輩……」


 ゴールデンウィーク明け初日の放課後。

 旧校舎にある部室で、私たち新聞部員は机に突っ伏していた。


 なんてったってあのお酒消失事件――いや、酒天童子事件から早1ヶ月が経った今。


 「せっかく新入部員が二人も入ってくれたのに、ネタがなくて新聞が書けないなんて!!」


  鈴木先輩がそう嘆いた。


 私たち新聞部は、学校新聞の『文樫新聞』と、妖怪に焦点を当てた新聞『もののけスクープ』を作っている。


 もののけスクープって名前は、酒天童子事件のあとに、樹理ちゃんと私が考えたんだ!


 なんだけど……。


 「学校新聞は年4回、春夏秋冬で作るのが伝統的だから次に作れるのは数ヵ月後だし……」


 「だからといって、妖怪の噂とかも流れてこない!!」


 だから、何もすることがないんだよね……。


 鈴木先輩と樹理ちゃん、そして私がそんな会話をしている中、鬼龍院先輩は黙々とパソコンで作業をしている。


 そういえば、鬼龍院先輩は私が仮入部に行ったときもパソコン作業をしてたなぁ。

 一体、何をしてるんだろう?


 「小豆沢、何? 集中できないからこっち見ないで」


 「ひっ……すみません!!」


 うぅ……やっぱり鬼龍院先輩、怖いなぁ。

 妖怪の世界に飛ばされちゃったときはあんなに頼もしかった鬼龍院先輩。ちょっとは苦手意識が薄れたかなぁなんて思ってたけど、やっぱり苦手かも……。


 「こら、鬼龍院! そんな事言わないの! こんなに可愛い新入部員ちゃんをいじめるなんて……」


  「別にいじめてないって。馴れ合いするための部活動じゃないんだから、いいんだよ」


 「そういう問題じゃないでしょ!」


 鈴木先輩と鬼龍院先輩が言い合いを始める。もう新聞部に入ってから何度も見た光景だ。


  こんな言い合いができるくらい、先輩二人はすっごく仲がいい。やっぱり一年生からの付き合いだからなのかな。


 「仲いいよね、先輩たち!」


 樹理ちゃんがそう話しかけてくる。


 「ふふ、だよね」


 「でも、私たちも負けないくらい仲良しだもんね!」


 「うん、そうだね!」


  樹理ちゃんとは高校に入学したその日に仲良くなったけど、酒天童子事件があってより樹理ちゃんの事を知れたんだよね。

 

 そして、二人で新聞部に入部してもっと仲良くなれた気がする。


 「おい! 人間!」


 「げっ、酒天童子……。起きたの?」


 「げっ、とはなんだ! オレサマは、おまえに用があるんじゃないぞ! チョコレートの方の人間に用があるんだ!」


 「チョコレートの方って……」


 相変わらず、生意気な奴め……。

 あの事件から、妖怪の世界に戻れなくなった酒天童子。結局今も帰る術が見つからなくて、今も私が世話をしてるんだ。


 「人間、聞いてるのか? チョコレート、くれってば!」


 「はいはい」


 こんなにちっちゃいのに、性格はめちゃめちゃ図々しいんだよね……。

 私はチョコレートをひょいと投げると、酒天童子は器用に口でキャッチする。

 「うめぇ~!」とニコニコの酒天童子は、とっても可愛らしく見える。


 「もう、翔子ちゃんにそんなに甘えないの! しかも、そんなに食べたら体に悪いよ!」


 「オレサマ妖怪だから、そんなの気にしなくていいんだよ!」


 「だからってねぇ……」


 樹理ちゃんは酒天童子に説教を始める。これも、新聞部に入ってから何度も見た光景の1つ。仲が悪いようで、実は仲良しに見えるんだよね。


 この前そんなことを二人に伝えたら、口を揃えてないないないと否定された。

 そういうところが仲良しに見えるんだよっていうことは、否定されそうだから黙っておいた。


  賑やかな新聞部を見て、私は思わず笑顔になってしまう。楽しいなぁ、ってね。


 ネタがないのはちょっと残念だけど、平和ならそれでよし! だよね。


 そう思っていると、なにやら廊下の方から足音が聞こえる。


 あれ、ここって旧校舎だから新聞部以外は使ってないはずなんだけど……。


 もしかして、妖怪!?

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