第44話 取材《ロナ》
ダンジョンから出て放送を終え、ペンタを抱きかかえてテルラが着替えてくるのを待つ。ヨツカがペンタを預かろうとする素振りを見せたが、自分で抱いていたかったので断った。
「ヨツカさん、ペンタをテイムさせたのって、便利な武器になるからですか?」
暇だったので聞いてみた。
ヨツカは首を傾げ、曖昧な返答に留める。よく分からなかった。
「ロナさんとヨツカさんですか?」
二人に声をかけてくる者があった。あまり探索者としての雰囲気のない相手に見えた。パンツスーツ姿の若い女だ。
「連絡頂いた――の福田です。本日は宜しくお願いします」
その言葉で合点が行った。テルラが取材を取り付けた相手だ。待ち合わせ場所は女神の前髪だったが、その時刻まではまだ結構あったはず。かなり早めに足を運んできたらしい。
「ああ、テレビ局の……」
「はい。もう一人の方は……」
「今着替え中です」
「すみません。早く来すぎてしまって。実はさっきまでお二人の配信を見ていて、今行ったらお待たせしなくて済むかな、と」
「そうなんですか。ご視聴ありがとうございます」
「ペンタ君、可愛いですね。私、スライムをあんなふうに活用するの、初めて見ました」
「ちょっと可哀想ですよね」
「そうかもしれませんね。でもただのスライムには珍しい大活躍でしたよ。ペンタ君にはどんなふうに進化して欲しいですか?」
「どんな」
考えてもみなかった。健やかに育ってくれたらそれでよいのだが。変に期待もかけたくない。
「やっぱり、クリスタルスライム?」
「そうですね。そこまで行けたら良いですけど……どういうふうに進化しても、大事にしたいと思います」
クリスタルスライム。スライムの最上位の進化形態だ。結界魔法で鉄壁の守りを敷いてくれるらしい。
「二人共お待たせ」
テルラが更衣室から戻ってきた。
彼女と福田が挨拶を交わす。
「それじゃ、早速行きましょう」
「はい。約束通り美味しいお店にご案内させて頂きます」
「それとノートパソコンは持ってきてくれましたか?」
「それもご指定通りに」
「ありがとうございます。ヨツカさん、筆談よりもタイピングの方がやりやすいみたいで」
「成程、そういうことだったんですね」
ギルドの外に出ると福田の乗ってきた車に案内される。自動運転のそれで向かった先はテルラの希望通り寿司屋だった。高そう。と言っても、ロナに分かる寿司屋の違いなんて回転寿司かそうでないかだ。回転寿司さえ満足に足を運んだ経験がない。
福田は店の人間に事情を説明し、取材のためにカメラを回す許可を得て、奥の席へと通される。他の客がヨツカを物珍しそうに見ていた。ネットで見た奴だ。そんな話し声が聞こえる。
テルラとロナが並んで座り、福田とヨツカが並んで座った。福田は早速パソコンを取り出し、それをヨツカの前に置く。取材用のカメラが起動された。テルラがダンジョン探索で用いている物に似ている。
最初はテルラとロナが、ヨツカと初めて出会った際のことから日常における彼の様子まで聞かれ、二人が出てきた食事に熱中し始めると、質問の相手はヨツカに移っていった。
アンデッドとして蘇った感想はどうですか。
今の暮らしは苦しくないですか。
お二人との関係は良好ですか。
これからの人生に何か希望はありますか。
ご家族とはどうなっていますか。
もし他に、自分もアンデッドとして蘇りたいという人がいたら、何か伝えたいことはありますか。
ヨツカはキーボードを打ってその質問に答えていく。画面が反対を向いているのでロナ達にその答えは見えない。福田の反応から大凡の答えを推察するのみだ。
「ヴァルハラ」
その言葉が福田の口から紡がれる。聞き覚えのある言葉だ。
「そういえばヨツカさん、以前にもヴァルハラがどうとか仰ってましたね。結局それって何なんですか?」
「北欧神話で語られる天国ですね。戦って死んでいった者が行くとされる……。ヨツカさんはその目で直接ご覧になったのですか?」
福田の台詞にヨツカが頷いた。
「臨死体験ですか。そちらも興味深いですね」
キーボードを叩く音。長く続いた気がする。ロナも興味を持ってそれを見守った。
死後の世界か。
言われてみれば、ヨツカは一週間も死んでいたのだし、それを目にしていてもおかしくない。
本当にあるのだろうか。
人が死ぬ間際になると脳内物質がどうこうという話を聞いたことがある。ヨツカの言っているのはそれが見せた幻なのか、それとも実在する死後の世界なのか。
少なくとも、本人はその体験を事実だと確信しているようだった。
ヴァルハラの詳細に関する文面が打ち込まれたらしい。
福田が所々読み上げたそれは如何にも天国らしい情景で、ロナとしては半信半疑の印象が強い。
「つまりヨツカさんの希望としてはこのままダンジョンで戦い続け、そのうち戦死してまたヴァルハラに行きたいと」
福田によるその纏めが、ロナには重く響いた。
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