第8話 増えた視聴者
日曜日、ダンジョンでアザミと出会った翌日、俺は今日もダンジョンの入り口に立っていた。
普段通り、バッグからカメラを取り出し、口を開けたまま背中に背負い直す。
カメラを起動し宙に浮かせると、スマホを操作し配信を始めようとした。
すると、自身のチャンネルの登録者数が妙なことになっているのに気が付いた。
一桁だった登録者数が五桁になっている。数万人規模だ。何かのバグだろうか。
訝しみながらも配信を開始し、リンネアを呼び出した。
すると早速コメントが付く。いつもの人だ。毎回配信がある日は同じような時間に開始しているので、それに合わせて待機してくれているのだろう。
物好きだな、とは思う。
とはいえ、悪い気はしない。
『一気に登録者増えましたね。今日も王者の貫禄見せつけちゃって下さい』
「王者の貫禄は分かりませんけど、今日もいつも通り配信していこうと思うので宜しくお願いします」
馴染みの挨拶を交わす。
「それにしても、何で一気に増えたんですかね。サイト側のバグでしょうか」
「何かあったの?」
「チャンネルの登録者が一気に増えたんだよ」
「へえ~、良かったじゃん」
リンネアが画面を覗き込んで会話に加わってきた。
すると、新たにコメントが書き込まれる。気が付けば視聴者数も今まで見たことがない数字になっていた。
『宜しくお願いしまーす』
『よろしく~』
『フェアリー可愛い!』
『増えてるのは昨日の件でチャンネル特定されたからですよ』
『昨日はアザミちゃんとヒカリちゃんを助けて頂きありがとうございました。貴方は僕らの恩人です』
『今日は同じサモナーとして勉強させてもらいます!』
『質問いいですか?』
『アザミちゃんとはどういう関係?』
「わっ、凄い反応。今まではド底辺配信だったのにねぇ」
リンネアが目を見開いてからカメラの方に向き直り、手を振る。注目されて悪い気はしていないようだ。
それにしても、原因は昨日の出来事か。考えてみると納得が行く。はっきりと確認はしなかったがアザミ達の周りにもカメラが飛んでいたし、やはりあれは配信中だったらしい。アザミが一切視聴者向けに言及していなかったし、凄惨な映像が流れる前に放送を中断している可能性もあるかと思っていたが、そうでもなかったようだ。
それにしても、よくこのチャンネルを見つけたものだ。
「こんにちは、フェアリーのリンネアでーす!」
『こんにちはー!』
『可愛い!』
『サモナーに生まれたい人生だった』
『フェアリー良いなぁ。呼べたらダンジョン探索が一気に華やかになりそう』
リンネアが視聴者に愛想を振りまいている。
『もしかして特定召喚ですか?』
「そうだよ。アタシはヨツカの専属」
特定召喚とはリンネアのように、ある種族の中の特定の個体を呼びつける召喚のことだ。特定のパートナーと長く付き合いたいというリンネアに声をかけられて、結果フェアリーを呼ぶ際には必ず、最初にリンネアを呼ぶことにしている。
「えーと、アザミさんとは高校のクラスメイトです。サモナーとしては……まあ、俺の配信で何か参考になりそうでしたら幾らでも見ていって下さい。質問は…………これからダンジョン探索なので、終わった後にお願いします。時間がない方はシャウターのアカウントの方に質問して頂ければ、可能な範囲で答えようと思います」
ダンジョンの出入り口でいつまでものんびり話しているわけにもいかないので、質疑応答は後に送る。とはいえ、推しの配信者を助けた人物にちょっと興味を持って覗きに来ている手合ばかりだろうし、直ぐにいなくなる視聴者ばかりではないだろうか。
「さあ、行こうリンネア」
「はーい。それじゃ、索敵のお仕事に戻りまーす」
リンネアはカメラに手を振って、それからダンジョン内に向かってゆっくりと飛んでいく。
「基本的にコメントは読まず淡々と探索するスタイルなので退屈かとは思いますが、改めて宜しくお願いします。それでは」
一言新規の視聴者達に断って、俺はスマホをポケットにしまった。そして、リンネアの後についていく。
大勢の人間に見られていると思うと少し落ち着かないところがあったが、コメントを見なければいないのと同じだと思ってやるしかない。
きちんと集中を保たなければ。
ダンジョン内はいつ命を落としてもおかしくないのだから。
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