【超短編】収穫者達は未来しか見えない

茄子色ミヤビ

第1話

 それは不幸な事故だと思った。

 火星ファームで収穫した野菜を地球へ持ち帰る任務の途中、突然メインエンジンと第三エンジン部分に隕石が衝突し…地球への帰還は絶望的になった。

 それが2年前。

「私だけ生き残って何になるというのだ…」

 最後まで生き残ったのは、農作物品種改良研究者である私だけだった。

 燃料は全て居住エリアの維持に使い、食糧は備蓄分に加え火星産の野菜もあるのであと半年は持つ計算だったのだが…ある日、警報音が鳴り響いた。

 どこかの惑星の重力圏に入ったのだ。

 早く離脱しなければ墜落してしまう。

 しかし何も出来ない私だけを乗せたシャトルは…なすすべなく徐々に加速し、惑星へと近づて行った。

 

 ぼんやりとした青い光で私は目を覚ました。

 地球に帰って来られたのか?と一瞬思ったのだが、私を取り囲む彼らの姿がそれを否定した。

 彼らの顔立ちはアジア人の特徴そのものだったが、その肌はミルクのように淡い白色で髪の毛がなく、また服を着ておらず平均の身長は平均で140センチほどだった。

 そんな彼ら10人がベッドの周りをぐるりと囲み、私に青い光を出し続ける銃を向けていたのだ。

「来るなっ!」

 私はパニックになりながらベッドから転がり落ち、彼らを制すべく突き出した右手を見て…愕然とした。

 手首から先が無かったのだ。

 墜落事故のせいかと思ったが、どうにもおかしい。

 右手以外どこにも不調がないのだ。

「どういうことだ…?」

 さらに奇妙なことは、右手首の断面はつるりとして縫合の跡もない。

 こうなると考えられることは1つ…彼らが治療してくれたのだ。

 そして彼らは銃のグリップ部分に付いた小さな宝石を捻ると、青い光は収束して私の右手に集まってきた。私の推測は当たっていた。手首がぐちゃりと潰れて千切れるまでの過程を逆再生するように、右手が元に戻っていったのだ。

 それから彼らの代表らしき額に赤い点ををつけた者に村を案内された。

 彼らは言語以外の方法でコミュニケーションをとっているようで、村は非常に静かだった。テレパシーというやつだろうか?

 彼らの家は共通して紫色の植物で編んだ大きなドームだったのだが…何日一緒に過ごしても、彼らの文化レベルが分からなかった。

 全てちぐはぐなのだ。

 基本は周囲の植物と岩を加工して生活用品にしていたのだが、私を治療した銃のようなものから始まり、屋内の照明は天井に浮いている光る紙が使われ、冷蔵庫の機能を持つ真っ黒な立方体など…。原始的な生活と未知の科学を使ったものが同居していたのだ、

(…ひょっとするとシャトルの修理を頼めるかもしれない)

 墜落したシャトルが無事だとは思えなかったが、淡い期待抱いた私は墜落現場までの案内を頼もうとあてがわれた家を出た。しかし既に外では彼らが待ち構えており、私の手を引いて歩き始めた。私の心もテレパシーでお見通しというわけか。


 そして案内された先には…なんと無傷のシャトルがあった。

 予め掘ってあった穴にシャトルが飛び込んだといった具合で、穴の中は緩衝材の役目を果たした粘性の高い液体が満たされていた

 それを見た私は、村で見かけたいくつかの光景を思い出し合点がいった。

 ある者が無造作に手を挙げると、その手に果実がぽとりと落ちてきたこと。

 住人がパラパラと家に入っていった直後に、石の雨が振ってきたこと。

「予知能力があるのか…?」

 彼らは返事をしない。身長や顔の造形もあいまって随分幼く見える彼らは、どこかきょとんとした表情に見えた。


 そして、半年が経過した。

 彼らはいつの間にかシャトルから火星産の野菜を持ち出し栽培を始めていた。

 もちろん命の恩人である彼らを責め立てる気はない。それどころか火星産の野菜は力強くこの星でも実ってくれたと、研究者として誇らしく思えたくらいだった。 

 そして予知が出来る範囲には個人差があるようで、私は何人かに育て方をアドバイスし…私はようやく1つだけ恩返しができたと喜んだ。


 しかし、私はあることに気付きゾッとした。


 彼らは日が落ちると同時に全ての記憶を失っていたのだ。

 ただ予知能力を使って今日を生きるだけの存在…それでも何不自由なく過ごしているという事実に、私は底知れぬ恐怖を感じた。

 そしてある日。

 参加した村の祭りで『私がここに来た原因』を知ることになった。

 遥か先の未来が見える村長の指示で、住人たちが巨大なレールガンらしきものを空へ向けて撃ったのだ。このレールガンも、おそらくどこかの別の星の住人の技術なのだろう。

 私は彼らを睨みつけたが、何もできないことを知っている彼らは、キュウリ片手に空をじっと見続けていた。

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