スピーカー

むきむきあかちゃん

スピーカー

 U駅の近くの国道の通る道路沿いの細い歩道では、赤いニット帽を被った少年が一人でマイクを握って毎日ラップしていた。

 彼はだいたい夕方四時くらいに歩道に現れ、六時まで二時間きっかりパフォーマンスして去っていくのだった。

 彼の隣では、ところどころ焦げたみたいに黒い鈍色のスピーカーが彼の声を拾って音を流していたが、立ち止まって聴く者はほとんどいなかった。

 彼は晴れの日も雨の日も、平日も休日もその決まった時間に現れ、スピーカーから流れる小さなドラム音のビートに合わせてただずっとラップをし続けた。

 だが、彼は、二年前スピーカーとマイクを残して消えた。

 彼が消えてからも、スピーカーは相変わらず、夕方四時から六時きっかりまで毎日、少年のラップと小さなドラムビートを流し続けている。

 あまり人通りのない道だったので、未だスピーカーもマイクもずっと放置されている。

 この前近くの河川で汚れた赤いニット帽を見つけた。

 今日もまた夕方四時から彼のラップが聞こえる。

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スピーカー むきむきあかちゃん @mukimukiakachan

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