バイト先のクールでダウナーな先輩が実はめちゃめちゃ可愛い

海野 鯵

プロローグ

 この世の人間には、大体 というものがある。


 頭が良くて勉強ができる“秀才”。

 運動ができて熱血な“体育会系”。

 顔が良くてモテる“容姿端麗”。


 例を挙げたらキリがない。それほど多くの属性というものが存在し、人々は皆、自分の意思とは関係なくいずれかの属性に振り分けられる。


 要するに、周りから見た自分、レッテルやキャラといえばわかりやすいだろうか。

 そしてその属性に合わせて生きる者、気にせず自分らしく生きる者、色々な人がいるだろう。


 僕はもれなく後者である。

 その方が無難に人生を過ごせると思うからだ。


 だってそうだろう?

 先述の通り、属性というのは他者から見た自分を形容したものである。

 そうである以上、下手にそれを無視して周りから煙たがられては生き辛くて仕方がない。


 それに大体の人間が、大なり小なり自分の属性という物を意識しているだろう。

 だからこそ、属性を理解してそれに合わせて生きる。これこそが人生の最適解だと思っている。



 では、僕こと藤代 爽ふじしろ そうの属性とはなんだろうか。


 ズバリ、“平凡”だろう。

 容姿も性格も、運動も勉強も、特にこれといって秀でておらず。かといって劣ってもおらず。

 ザ・普通というのが僕の属性であろう。


 実際、なんの文句も異論もない。なぜなら事実だから。


 僕が通う常盤大学は、至って普通の私立の大学で、文系理系ともに「名門」と呼ばれることはないが「どこだよそれFランじゃーんwww」ともならない、当たり障りのない大学だ。


 そんな普通の大学で品行方正成績優秀なわけでもなく、かといって素行不良の問題児でもない。

 モテるわけではないが、嫌われたりもしてない。

 友達が多いわけではないが、全くいないこともない。

 コミュ力だって……(以下同文)。


 要するに平凡中の平凡。それが僕という人間だ。



 そんな僕には、憧れの人がいる。


 それは、僕がアルバイトをする喫茶店「pia」でともに働いている先輩、龍ヶ崎 秦りゅうがさき しん 先輩だ。


 龍ヶ崎先輩を、先に述べたでいうのであればそれは“クール”である。

“ダウナー”でもいいかもしれない。


 整った端正な顔立ちに艶やかな黒髪が醸し出す凛とした印象。

 しかしその瞳はどこか気だるさを感じさせる、いわゆるジト目というやつだろうか。


 170cmほどであろう身長は女性の中では長身の部類である。

 それに加えてウルフカットという、この世でも選ばれしものしか似合わない髪型をしている。


 ここまで聞いてわかっただろう。見た目の時点で既に“クール”で“ダウナー”の名に恥じぬ佇まい。

 しかし、彼女はそれだけではない。


 そのルックスから男女問わず人気の高い彼女だが、そのモテ具合に驕らず、というか気にもしていないような態度。

 さながら一匹狼とでも言うべきだろうか。


 ノリが悪いわけではないがテンションは低め。加えて抑揚のないハスキーボイスは感情を隠す。


 見た目も中身もまごうことなく“クール“で“ダウナー”である。

 しかもそれが素なのであろう。



 初めて彼女に出会った時、僕は思い知った。

 属性というものを完璧に体現した存在、それこそが彼女「龍ヶ崎秦」という人間なのだろう、と。


 幸運にも彼女とシフトが被ることが多かった僕は、彼女と色々な話をした。

 年は僕の一つ上だということ。

 僕と同じ常盤大学の学生であるということ。

 彼女を知っていう中で、僕はどんどん彼女に惹かれていった。



 ある日のバイト中、休憩の時間になった僕はなんとなく屋上に行ってみた。

 二階建てのこの店は、従業員が自由に行き来できるように屋上が開放されている。


 しかし特に行く機会もなかったため、これを機にと屋上の扉を開いた。


「あれ、珍しい顔が来たね」


 待ち受けていたのは屋上からの繁華街の雑踏を眺める景色、だけではなく、その背景がよく似合う龍ヶ崎先輩だった。


 屋上の柵にもたれる先輩。手に持った煙草の煙に包まれた彼女からは、どこか幻想的な雰囲気を感じる。


「お、お疲れ様です」


 見惚れている場合じゃなかった。

 良い印象を与えるためにもしっかりと挨拶をした。


「ああ、お疲れ様。ってあれ、キミって煙草吸うっけ?」


「いえ、外の空気を吸おうと思って」


「そうだったんだ。ごめん、空気汚しちゃった」


 僕の答えに対してそう返した先輩は、深く吸った煙をゆっくりと吐き出しながらニヤリと微笑む。

 その妖艶さは、僕の心を掴むのには十分だった。


 先輩は「じゃ、アタシは戻るね。美味しい空気をたっぷり堪能しな」と言い残して店へと戻っていった。

 僕はしばらく呆然としていた。


 自分の属性を理解しきっているといっても過言ではない。それくらい完璧な存在だった。



 僕は完全に彼女に心を奪われてしまった。

 といっても別に愛だとか恋だとか、そういう話ではない。

 ただ、1人の人間として心の底から尊敬しているということだ。


 いつしか彼女は、僕の憧れであり理想となっていた。



 しかし、その憧れであり理想でもある存在に裏切られることになるなんて、この時の僕は想像もしていなかった。




〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜◇〜

皆様初めまして。海野 鯵(うみの あじ)、しがない物書きです。


ラブコメラノベを書いてみることにしました。しばらくは2日に1回投稿していこうと思います。何卒、よろしくお願いいたします。


それでは、また2日後に会いましょう!








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