【3】うわっ……俺のステータス、低すぎ……?
レベル、という概念がある。
こいつは十年前の魔王戦役の時に提唱された指標で……まあ、恐らく説明するまでもないと思うが、諸君が思い浮かべるいわゆる「レベル」と同じものと思ってもらっていい。
冒険者の力量を可視化して適切な部隊編成を行うことを目的に設定されたこの数値は、冒険者個人個人の培ってきた経験を換算して「冒険者カード」と呼ばれるマジックアイテムを通して表示される。
で――俺はというと、レベル9999。一般的な衛兵でレベル5、エレンたちみたいな腕利き中の腕利きで60がいいところであることを考えれば、この数字がどれだけぶっ飛んでいるかは分かるだろう。
一般的に、レベルが上がれば上がるほど冒険者の力量――【力】とか【防御】とかといったステータスの方もそれに応じて、個人の才覚に応じた項目が上がっていく。
例えば力と体力に秀でた「重戦士」クラスの適正が高いゴウライなんかは、【HP】や【力】、【防御】の伸びがいい代わりに【敏捷】や【魔力】といった部分はそこそこ程度。
万能クラスである「勇者」のエレンは満遍なく高い――といったふうに、一概に同じレベルでも個人によってそのステータスの伸びは変わってくるのだ。
そこで当然諸君も気になっていると思う。レベル9999――この超弩級、頭2つ分くらい抜けた極限レベルの俺のステータスはいかほどのものかと。
気になるよな。オッサンのステータスなんてどうでもいい? あらすじで知ってる? まあそう言わずに。
それでは公開しよう、俺のステータスはこの通り。
ウォーレス・ケイン レベル9999 クラス:【剣士】
【生命】1
【精神】1
【力】1
【魔力】1
【防御】1
【敏捷】1
【器用】1
【抵抗】1
【魔法抵抗】1
……。まあ、そっくりそのままあらすじの通りなんだが。
ステータス、オール1。ちなみにこれがどれくらいスゴイかと言うと、そのへんをうろついている街の衛兵(レベル5)のステータスが、
【生命】300
【精神】20
【力】15
【魔力】8
【防御】10
【敏捷】8
【器用】7
【抵抗】4
【魔法抵抗】3
うん、俺が数人がかりで殴りかかっても返り討ちだ。なるべく衛兵のご厄介になるような真似はしないでおこうと思う。
……とまあこんな感じで俺の状況はおわかりいただけたことだろう。
で、当然言わなければいけないのが、「どうしてこうなっちまったのか」だ。
それについて語るにあたっては、俺がどうやってこのレベルまで到達したのかって話になるのだが……簡単に言えば、しこたま雑魚を倒し続けたのだ。生まれた街の周りで。
俺の出身は、かつて魔王の勢力圏から最も遠いと言われていた西のど田舎。
何の変哲もない、田舎の村人Aであった俺。とはいえ10年前、ちょうど魔王との戦いの真っ只中だったから――俺もいつ村にモンスターの襲撃があっても対応できるよう、力をつけておきたかった。
だから俺は、当時配られ始めていた冒険者カードを片手にとにかく雑魚モンスターを倒した。
魔王の影響力が低い地域では当然生息している野良モンスターも雑魚が多いから、俺みたいな村人Aでも難なく倒せる程度で――だから経験値のために倒して倒して、倒しまくった。
モンスターの強さと自分のレベルの差が開けば得られる経験値の量はどんどん減るのだが、冒険者カードの仕様上、「1」は必ず入るらしい。だから俺は村の周りのモンスターが軒並み全滅するんじゃねえかってくらいに狩り続けて――
その結果、こうなった。
最初に気付いたのは、レベルが500を超えたあたりだったか。これだけレベルを上げ続けているのに、体感でのモンスターの強さが変わらない……そのへんになってようやくおかしいと感じ始めた。
いやまあ、もっと前に気付けよって話ではあるのだが。ともあれ何かの間違いじゃないかと思って一度近くの冒険者ギルドまで問い合わせに行ってみると、
『仕様ですね』
ギルドの受付で言い渡されたのは、無情にもそんな一言だった。
曰く、雑魚を倒してもレベルは理論上いくらでも上げることはできる。だが一方で、ステータスの上昇はあくまで本人の資質を反映する。
才能のない職業でいくらレベルを上げたところで――ステータスはびた一文、入ってこないのである。
『……つまりアレですか。俺は剣士の才能すらないと……?』
『控えめに言うと、そういうことですね。もっと言うなら多分戦闘職の才能は皆無なのかと。ご愁傷さまです』
というのが当時の受付での会話。
……その後も諦めきれずに狩りを続けて、ついでに他の手段で経験値を入れるのもアリなんじゃないかと思って経験値アイテムをたらふく買い込んで使ってみたりもしたが結果は変わらず。
かくて今の俺が出来上がり――そしてギルドで無駄に高レベルな冒険者として登録されていたせいで国王の目に留まってしまい、有無を言わさず勇者パーティの一員として同行させられることとなったわけだった。
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