異界の森

ホイミラー

第1話 森

 どこまで歩いてきたのだろうか。

 この暗く不気味な雪降る森の中、道も分からずただひたすらに歩き続け何日が経過したのかさえ分からなくなっていた。

 森の中は薄暗いというよりも永遠の夜が繰り返されているかのように暗いまま。

 木々も特別多いわけでもないのにも関わらずだ。

 生き物がいる気配もしない。

 積もった雪が生きた生物の場所を教えてくれるはずなのだがどんなに歩いていても自分の足音しか聞こえてこない。

 「はぁ、この森は一体どこまで続いているんだ」

 白い息をため息とともに出しながら、心に秘めていた愚痴も一緒に吐き出した。

 幸い食料や水はあと3日分ほどは残っているのだが、心による疲労とストレスで先にやられてしまいそうだ。

 一度こぼれ出た不安やストレスは止まることなくこぼれ始める。

 ただ遠い国に買い出しに来ていただけなにどうしてこうなった。

 道筋に森があるのは知っていたのだが、ここまで不気味で危険そうな森があるなんてどこにも書いていなかったはずだ。

 歩く方角も確認しながらの旅路だから間違えるはずがない。

 そもそもこれがただの森ならよかった。

 まだここまで心が不安になることも縮んでいくこともなかっただろう。

 だがなぜここは進むにつれ景色が一向に変わらないんだ。

 これだけ歩いたのに日の光が入らないこと自体がおかしいんだよ。

 青年は不安を頭の中いっぱいにかき混ぜながらも自分がおかしくなっていないのか、本当に自分は進んでいたのかを確認するかのように後ろを振り向く。

 青年の背中から後ろに向かってまっすぐに、自分で歩いたであろう足跡が続いていた。

 その事実に安心すべきか、これが夢ではないことにさらに絶望するべきか青年の心をさらに不安にさせた。

 「……、今日はもう考えることはやめて寝よう」

 青年はそう決めると、背負っていた大きなリュックを雪の上に置き中から簡易テントを取り出しこなれた手つきで設置。

 その後テントの中でひとりもそもそパンを食べた後、早々に毛布に包まりながら眠りについた。

 目が覚めてテントの外に出るとそこには寝る前とは何一つ代わり映えしない景色が広がっていた。

 せめて明るさだけでも変わっていてくれればと起きて早々に心が沈みながらもテントを解体。

 いつものようにリュックを背負い歩き始めたが、その足取りはだんだんとペースが遅くなっている。

 青年の目は日に日に虚ろな、生気がない者へと変わっていた。

 

 あれから何時間、何日歩いたのだろう。

 青年は体力というよりも先に心が疲れてしまいとうとう、その場で座り込んでしまった。

 青年はその場に足を抱え込むように座ると、生気のない目でこの先歩き続けるであろう暗い森の奥先を見つめる。

 そのまま暗い森の奥地に意識そのものが吸い込まれるように、吸い取られていくようにだんだんと瞼が閉じていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと消えていくように、すべてが闇に包まれるように。

 「おい、ここで何をしている?」

 と、その時だった。

 突然背後から暖かな色をした光と共に、少し低めのハキハキとした女性の声が聞こえてきた。

 青年は思わず我に返り、後ろを見る。

 するとそこには暖かな心を取り出したような久しく見なかった、光。

 ランプを片手に持った少女がいつのまにか後ろに現れていた。

 その少女はとても不思議な外見をしていた。

 この雪にも負けないような純白の短い髪に、猫やキツネのように縦長い大きな耳。

 そしてその耳の近くにはすごく小さくだが青緑色に淡く発光しているシカのような角まで生えている。

 服装は暖かそうなコート姿で、赤くて白い、真っ赤で透き通ったガラス玉をそのまま入れたようななんともきれいで不思議な目をしていた。

 まじまじと見つめる青年に疑問を抱いたのか、はたまた何もしゃべらない青年に疑問を抱いたのかその少女は小さく首を傾げた。

 それを見ても青年は固まったまま。

 青年はうれしさや喜びはあったのだがいくつかの疑問が頭の中にあった。

 その代表的な疑問はこの子は一体何者なのか。

 この世界に獣人族はいる。

 しかしそのシカのような淡く光った角を生やしているものを見たことも聞いたこともない。

 この森だけにすむ種族なのだろうか。

 そんな疑問と共に見つめていると少女が一歩青年に近づき手を差し伸べた。

 「安心しろ。私はお前の敵じゃない。そんなとこでうずくまっていると風邪ひくぞ」

 その手を差し伸べた少女の顔は無表情だったがその言葉からなんとも言えない温かみを感じ、思わず手をとってしまった。

 そのまま引っ張られるようにその場に立つと少女を見てお礼を言った。

 「その、ありがとう。このままだったら動けなくなってたかも」

 立って初めて分かったがこの少女、意外と身長がでかい。

 175メートルある俺の身長よりも少しばかり大きかった。

 「そうか。ところでお前は何でこんな森に入ってきたんだ」

 当然の疑問だ、青年は初め明るい森の中を歩いていたはずなのだ。

 しかし途中から開けない夜、この森の中を歩いていた。

 そのことを少女に伝えると少女は腕を組み、しばらく考えるように空を見つめこう言った。

 「お前は運が悪いな」

 突然言われた言葉をうまく呑み込めず頭に?を浮かべていると、少女は続けてこう言い放った。

 「ここは異界の森。おそらくお前の居た世界とは別の場所だ」

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異界の森 ホイミラー @hoikingu11

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