恋という名の毒
虎娘
EP1.これは恋なんかじゃない!!
桜が咲き誇る4月、
同級生が多く通う地元の中学校ではなく、部活動が充実している全寮制の
新入生は入学前に入寮手続きなどあるため、入学式の少し前に学園に集められていた。設備が整っている学園に笑華の両親も納得し、心よく娘を送り出した。文武両道がモットーである学園の卒業生の多くには著名人が名を連ねていた。
〈まさかこの学園に通えるだなんて・・・。〉
始まってもない学園生活に淡い期待と勝手な妄想を笑華は膨らませていた。
寮の入り口に差し掛かったところで周りが何やら騒がしいことに笑華は気付いた。
「キャー!!見て見て!!冷酷王子こと、如月先輩よ。朝からカッコいい。」
「こんな朝からお見かけできるなんて・・・。幸せ過ぎるわぁ。」
「それに誰も寄せ付けないオーラ!!」
「素敵よねぇ。」
女生徒たちの黄色い声援の先には、この学園屈指のイケメンかつ頭脳明晰と言われている、1学年上の
「ふがっ。・・・ああっ、すみません。」
「いや、こちらこそすみません。よそみしてて突っ立てる方が悪かったので。ケガはしてませんか?」
笑華の目線に合わせるように屈んだ青年に優しく声をかけられ、一瞬返事をすることを忘れていた。
「・・・・・あっ、はい。大丈夫です。私も前を見ていなかったので。」
目の前には顔たちの整った青年がいた。視線が合うと同時に、彼はニコリと微笑んだ。その表情に目を奪られ、笑華は心臓の鼓動がこれまでにないくらい速く脈打っていることに気付くまでにほんの数秒かかった。みるみる顔が熱くなるのを感じ、居たたまれない気持ちになった。
「もしかして新入生かな?だったら僕と同じだね。そうだ、自己紹介をしていなかったね。僕は
「・・・私は平良笑華です。・・・よろしくお願いします。」
「同級生なんだから、気楽に話して、ね。」
キラキラ笑顔が眩しく、どう対処して良いかわからず固まっていると、
「・・・ジャマ。」
冷たい一言が夢見気分な笑華を現実に戻したのだった。視線を声がした方へ運ぶとそこには、睨みつけるように如月の姿があった。
「・・・すみません。」
言い終わる前にその場を立ち去った如月の後ろ姿は、どこか寂しそうにも見えたが気のせいだろうと思い、笑華は桜葉とともに寮の手続きを済ませに行った。
女子寮2階の割り振られた部屋へ入り、太陽の光を浴びたくてカーテンを開けた笑華だったが、目の前の光景を見てすぐさま閉じた。
〈いやいやいやいや・・・・えっ、噓でしょ・・・・なんで目の前が男子寮なの?しかもよりによってなんで如月先輩の部屋が見えるの?・・・これは夢?〉
カーテンが開けられた部屋の先には読書に勤しむ如月の姿があった。その姿は先ほどすれ違った人と同一人物とは思えないほど穏やかな表情であった。笑華は心の中でプチパニックを起こしながら色々と考えた。寮母へ部屋の変更をして欲しいと依頼しに行くも、変更はできないと突き返されたのだった。
〈こうなったら何が何でもカーテンは絶対に開けない!!〉
なぜか如月を意識しているみたいに思えたが、その理由はわからず、自分自身に言い聞かせるような呪文を唱えながら入学までの数日を過ごすこととなった。
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