男だと思っていた五年来の付き合いのネッ友とオフ会したら、隣のクラスの「棘姫」だった

秋宮さジ

プロローグ ネッ友とオフ会


 俺の名前は「冬城ふゆき佳純かすみ」。

 女の子みたいな名前をしているが、れっきとした男子高校生である。


〈kasumi1012 :十九番の部屋に通された〉


 そして今、俺はカラオケの一室に居る。

 スマホを開き、メッセージを入力して、送信。その十分後に、メッセージが来た。


〈Sob_A221 :もうちょっと掛かるかも。あと三分待って。〉

「遅いな、蕎麦そばの奴……」


 というのも。

 五年来の付き合いのネッ友(男)に、いわゆる「オフ会」を提案されたのだ。


 確かに、五年も付き合いがあるネッ友とリアルで会ってみたいと思うのは結構自然なことで、俺自身もオフ会というものに興味があったこともあり、それを快諾した。


 のだが――。

 オフ会当日。俺は、ある重大な問題に直面した。



 ◆



 ガチャリとドアが開く。


「お、やっと来たか。ったく、遅いぞ、蕎麦……って、え?」

「ごめんね、カスミ。ちょっと手間取っちゃって」


 ドアを開け、部屋に入ってきたその姿に――俺は息を吞んだ。


 俺が想像していたような中肉中背の男子高校生でも無ければ、ガタイの良い屈強な体格でも無かった。ましてや、ひょろひょろのガリガリでも無いのだ。


 紫がかった銀髪に、咲きこぼれる薔薇のような赤紫色マゼンタの瞳。男のそれとは思えないほどに高い声。そして、重力に逆らった豊満な胸、すらりと高い背にマッチする服装はいわゆる「大人可愛い」なファッション――。


 俺が想像していたものとは違った。少なくとも――――全てにおいて。


 部屋に入ってきたのは。隣のクラスの「柏木葵かしわぎあおい」だったのだ。


「あっ。、君だったんだ」

「へ……?」


 唖然とする俺をよそに、柏木さんはスカートを両手で抑えながらソファに座る。


「ふぅ。リアルで会うのは初めてじゃないよね」

「……ええと、柏木さん、だよな? 多分、部屋間違ってると思うんだけど……」


 柏木葵。


 容姿端麗、成績優秀。友人は作らず、いつも一人で過ごしている。彼氏が居るという噂もあるが、本人からそれについて口にしたことは無い、らしい。


「ん? 間違ってないよ?」

「は……?」


 話すときは、誰彼構わず敬語。その様相に、女子高生らしさは微塵もない。


 彼女に交際を申し込んだ男は、けんもほろろにその恋文を突き返される。

 そんな勇気もない有象無象が彼女に話しかけようものなら、圧倒的な鋭い眼光を一身に受け、そのまま硬直してしまう。

 そして一人、またひとりと身を引いていくのだ。


 その様を、触れるとケガをする「薔薇のとげ」になぞらえてか。

 はたまた、教室の窓際の席でいつも寝ているからなのか。


 付けられたあだ名は「棘姫いばらひめ」。

 俺の通う紀里きさと高校では、まさに高嶺の花と呼べる存在だ。


 それが今、俺の目の前で微笑みを浮かべている……。


「あ、そっか。まずは自己紹介しないとだね。私は紀里高校一年三組の柏木葵って言います。ゲームのハンドルネームはSob_A221そばにーにーいち。よろしくね、カスミ」


 柏木さんはうやうやしく頭を下げる。

 肩に乗っていた銀髪がふわりとなびき、慣性のまましゅるりと垂直に流れ落ちた。


「えっ……。いや、だって、蕎麦あいつは男で。VCボイスチャットの声だって――」


 戸惑いながらそう言うと、柏木さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「ごめん。あれ、嘘なんだ」


 俺は、ある重大な問題に直面した。

 それは――――ネッ友の、性別が違うということだ。


 なぜ、こんな状況になっているのか。話は一ヵ月前まで遡る。



 ◇◇◇ ◇◇◇


 面白いと感じて下されば、★、♥、フォローなどで応援お願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る