地元と都会の間

青山 奈央

モドル

 今日は地元、青森から今住んでいる仙台へ移動する日だ。

移動する前後は荷物の準備やら出かける準備やらで忙しくなるイメージがあるが私の場合、忙しさとは無縁である。無駄にたくさんの荷物を詰めた割には、実家にあるものだけで大抵の生活ができてしまうため、ほとんど荷物から何も出さない。出さないということは、しまう必要もないため、準備には時間がかからない。という訳で着替え以外のすべての時間が暇な1日がスタートした。

 あまりに暇なことを嘆いている私を見かねた母は私を買い物に連れ出してくれた。気付かぬうちに紛失した衣類を買い足すという名目で今日の暇つぶしは成立しそうだ。住み慣れた土地の通い慣れた店に行くのは、過去のいつも通りに戻る様で少し気恥ずかしさがあった。いざ入ってみると子どもの頃に感じていた高揚感は無く、時間の経過を感じる佇まいに感慨にふけってしまった。そこまで古い建物という訳ではないため、少し風情が増して見えた訳はつい最近まで仙台という青森よりは都会な土地で生活をしていたためだろう。自然と心の半分が仙台の人間になってしまっていたのだ。あれほどに出たかった地元なのに、心が半分離れたと思うと寂しく思う。私は青森の人間だ。ただの暇つぶし来店は「他の土地に馴染むだなんて嫌だ」という今更の地元愛を再確認機会になってしまった。

 買い物も済み、新幹線の出発時間が近づいたため、着替えを済ませ家を出た。駅の中は青森土産やねぶたの囃子等青森らしさが詰まった空間。知らない商品、あまり来ない店たちでも、”青森のもの”というだけですべてのものに愛着が湧く。そして、それらを買い求めようと行列ができているのもなんだか誇らしかった。新幹線に乗り込んでも、青森訛の人々や青森の駅弁当を食べている人々でいっぱいで、存分に青森を味わった。そしてその空間が心地よかった。青森から仙台は新幹線で約2時間。あっという間についてしまうため乗り過ごさないように注意しながら、音楽を聴いたり外を眺めたりしながらその2時間をゆったりと過ごした。やっぱりこの2時間はあっという間で、気が付いたら仙台に到着していた。キャリーケースを持ち仙台に降り立つ。なんだかんだ仙台も2年半住んでいる馴染みある土地だから特に気構えすることなく降り立ったのだかこれが間違いだった。さっきまで存分に青森に浸り、青森愛を心の中で爆発させていた私にとって1週間前にも住んでいた仙台とは違う。とても輝かしい都会に見えた。実際に都会なのだが、全く知らない土地に着いたような不安が心に広がった。あぁ、私は今、仙台の人間でもないのかと疎外感を感じながらも、人がごった返し電気が煌々と点いている景色にうっとりとした。

 長く住んだ青森も、2年半住んだ仙台も新鮮に感じるどちらにも帰りきれない人間だが、こんなにも美しさを感じ続けられるならそれはそれでうれしかった。ただ、これを書きながら、どちらにも帰ることができない寂しさが膨らみ続ける。私は今、都会と田舎の間でうれしさと寂しさに挟まれ空中を彷徨っている自由人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地元と都会の間 青山 奈央 @Oonaonao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ