ファンタジー×スポ根×アイドル『アイドル戦争』
@komadaaaaaaa
第1話 夢、叶えし者
「
77階建ての超高層ビル最上階に事務所を構える漢。
アイドルに人生を捧げた筋骨隆々の巨漢、
腕を組み葉巻を嗜みながら、夜の絶景を眺める漢は、目前の鏡に映るマネージャーへと返答を行う。
「ああ……
「なんでもって……どうしてそこまでっ!?」
「……
「
「そうだとも……見ろっ!! この夜景をっ!! 光輝く東京の姿をっ!! 生きとし生ける者達に、今っ!!
「っっっ!!」
「マネージャーよ……我の命も長くはない。どうかこの
「う、
「マネージャーよ……どうも
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2022年8月1日月曜日正午。
福岡県に存在する福岡第七高等学校内では、補講が終わり、学食に繰り出す大勢の生徒でごった返していた。
溢れんばかりの活気が渦巻く中、飯にありつく男女生徒達の間を搔き分けながら、勢いよく特攻していく女子生徒が、周囲の人間の視線を無理やり集めていく。
今年入学して来たばかりの彼女。
その存在感と光のように眩い言動により、学園内で知らない者はいないほどの知名度を誇っている。
その名は―――
「おばちゃ~~~ん!! 今日は焼きそばパン、売り切れてないっ!?」
「あら
「……
ルビーのように光輝く瞳に、セミロングの黒髪の先っぽを尖らせている彼女。
今日も訪れた騒がしい来訪者に、周囲からは微笑ましい歓声が上がる。
「おっ!! 白崎ちゃんっ!! 悪いねぇ~
「
「あ、光ちゃん!! さっき
「いやいや
「白崎がまた
「はいそこ男子っ!! 後で覚えとけよっ!? あ"ぁ"ん!?」
「はっ!! 上等だっつ~の!! ……ん? なんだアレ……」
右手の中指を立てて喧嘩を売りつける男子生徒の視線が、白崎から別の物体へと移り変わる。
その場所ははるか上空。
大型モニターを搭載した数多の飛行船が、雲のように空に浮かんでいた。
どよめきを上げる生徒達。
一斉に校外へと走り出すと、上空のモニターに流れる映像から、筋骨隆々の巨漢の老人の姿が映されていく。
『聞けぇい
「アイドル戦争っ!?」
「おいおい何言ってんだよあのオッサンっ!?」
『この戦いの勝者には……この我が、どんな望みでも1つ叶えてやろう!! 名乗りを上げる者は、1週間後の8月8日12時、各地域の指定の場所に
時間にして1分にも満たない時間。
たったそれだけの時間で、日本全国は混乱と熱狂の渦に巻き込まれていく。
狼狽える者、歓喜の湧く者。
白崎達の学校も例外ではなく、熱狂的な暑さが、夏の日照りを跳ね返していった。
「おいおいおい、あれ
「応募情報は……女なら何歳でも行けるって!!」
「わ、私出てみようかな?」
「お前じゃ無理だろっ!! つ~か、適任がいるだろっ!!」
周囲の視線が一斉に白崎へ向けられる。
何が起きているのかイマイチ把握できていない白崎は、みんなが外を向いている間に購入していた、野菜スティックを、ウサギのようにポリポリとかじっていた。
「……わた、私ぃ!?」
「そうそう!! お前可愛いし、絶対アイドルなれるってっ!!」
「優勝したら願いが叶うんだよっ!? 応募してみたらっ!?」
「うぅ~ん……悪いけど辞めとく」
「え? 何で?」
「……だって私、アイドルになる
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愛土の宣言により、街の景色は一変していく。
目をぎらつかせて戦いに挑もうとする女子高生、親の制止を振り切る中学生、藁にもすがる思いで携帯を見つめる20歳越えの女性。
彼女達が発する熱とは対照的に、白崎はどこか冷めたようにしている。
昼間の映像が頭から離れないまま、自宅へと戻った彼女。
自分の部屋へと歩いて行くと、制服のままベッドへ横たわっていく。
「……アイドルかぁ」
彼女も小学生の頃は、年頃の女の子らしく、アイドルになりたいと両親の前ではしゃいでいた。
転機が訪れたのは小学6年生の夏。
その時たまたま目にしたライブで、彼女は夢を諦めることになる。
ライブのメインを飾っていたのは、高校生アイドルではなく、成人したアイドルでもない。
白崎と同い年の女の子。
現在では日本最強のアイドルと名高い、
自分と同じ年齢の子が、自分より年上のアイドルをバックにつけ、主役として圧巻のパフォーマンスをする姿を見た白崎。
その時から、彼女はアイドルになりたいと言わなくなったのだった。
「黒川ちゃん、私と同い年なのに……住んでる世界が違うっていうか……
横になりながら、スマホを取り出し、趣味のSNSで情報を収集する彼女。
トレンドにはアイドル戦争の記事が幾つも乗っており、嫌が嫌でも目にすることになった。
「……はぁ~……しばらくSNS止めよっと」
「光? お父さんが呼んでるわよ」
「は~い、今行く~」
リビングに呼ばれた白崎。
テーブルを挟んで向こう側には、白崎の父親と母親が、神妙な面持ちで、白崎が着席するのを待っていた。
「え? え? なになにお父さん、お母さん?」
「光、昼のあのこと、知っているね?」
「アイドル戦争のこと? 私、アイドルにはならないよ?」
「……昔、あんなにアイドルになりたいって言ってたのにか?」
「うん。いや、今更何言ってんの? もう
「そうだな……確かに
「っ!!」
「今後の人生について見つめる良い時期だ。お父さんやお母さんは、光の進む道を応援するよ。だから……ちょっとアレコレ考えても良いんじゃないかな?」
「私は……アイドルの
「……そうかもしれないな。だからこそだよ光。そんなどこにでもいる人間が、
「……」
「よく考えてごらん? 時間はまだあるからさ」
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白崎がリビングから退出して数分。
室内には重い空気が漂っている。
先に口を開いたのは母親。
コーヒーが注がれたガラスのコップを右手に握りしめる父親に、母親は恐る恐る語り掛けていく。
「アナタ……これで良かったのかしら」
「ここから先は、光が決めなきゃいけない。アイドルになりたいなら後押しするし、別の道を進むならそれでも良い。今はただ、もう一度自分を見つめ直して欲しかったんだ。でないと……先の人生で必ず後悔するかもって、思っちゃったんだよ」
「後悔……?」
「ああ。昔を覚えているか? 光が幼かった頃だ。毎日毎日アイドルなるって言ってただろ? それがいつしか、めっきり言わなくなったんだ……心配したよ。聞いても何も話してくれないしさ」
「……」
「今は……光がどんな答えを出すのか。影で見届けよう」
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8月8日月曜日、正午に差し迫ろうとする時間。
天神中央公園の周辺は、工事現場で使用される仮囲いで囲われており、福岡県に住まう女性が一斉に中へと集まり、アイドル戦争に参加しようと意気込んでいる。
その囲いを挟んで外側には、未だに答えを出せていない白崎が、ただぼんやりと突っ立っていた。
「あんなにいるんだ……皆、
(福岡以外もこんな感じなのかな? その中から1人を決めるって……ふっ……やっぱ無理だよ)
「アイドル戦争に参加される方はもういないですね~? 〆切りますよぉ~」
入口で誘導を行う関係者の声を背に、白崎はその場を後にする。
今まで通り普通に学校に行って、普通に補講を受けて、普通に普通の人生を普通に生きていく。
そう彼女は決心したのだった。
その決意を……彼女の心は否定する。
『おとうさん、おかあさん、わたしね、アイドルになるのっ!!』
「っ!! また……頭から離れない……」
『すっごくかっこよくて、すっごくきれいで、わたしのあこがれなのっ!!』
「なんで……また聞こえてくんのよ……!!」
『アイドルになるのは厳しい道だよ? それでもなりたいの?』
『うんっ!! だってね、だってね? たくさんのひとをえがおにする、そんなアイドルにあこがれてるのっ!! きれいなすてーじにたって、きれいないしょうをきて、みんなをえがおにするアイドルは、すごいひとなんだよっ!! わたしもそんなひとになりたい。それが……それが……!!』
「止めてよ……もう、
『それがわたしの……
「っ!!」
白崎の足が止まる。
心の内で何度も語り掛けて来た幼き日の自分。
描いた未来と現実の自分を重ね合わせ、心が折れていた彼女へと、かつての自分が呼びかける。
『ねえおねえさん……
「………………嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だぁ"ぁ"ぁ"!! 諦めたくない、私も……
もう彼女の目に迷いはない。
今はただ一心に、己の夢を叶えるため走り出す。
入口の門は既に閉じ切った。
それでも彼女は走り出す。
そして……
関係者含め、全ての人間の視線を一身に浴びる彼女。
だが、覚悟を決めた彼女には、もはや怖い物などなにもなかった!!
「私、白崎光は―――アイドルに、なりますっ!!」
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