第四話 変わる運命(3)
「どうされました? どこか、具合でも悪いんですか?」
店の女性店主が、声を掛けてきた。
私はびっくりし、顔を逸らした。
「何でもありません」
「突然、お声がけしてすいません。でも、目に涙を浮かべられて、出入り口の扉を見つめられているので心配になりまして」
気が付かなかった。
ぐるぐると、まとまらない考えをしているだけのつもりだった。
「いえ。御免なさい。ご迷惑おかけしました」
とりあえず礼を言って、店を出ようとした。
「あの、ちょっと待っていただけますか?」
私の手を取り私の目を見つめ、店主は言葉を続けた。
「あなた、好きな方でもいるのかしら?」
(え? なぜ、そんなことを、この人は言うんだ? そんなことは、ないぞ)
しかし、涙が、頬を伝わっていった。
(好きな人? 誰を? 私が?)
「店の奥に休めるところがありますから、そこでゆっくりしていかれませんか?」
「いいえ、大丈夫です。御代は、これで良いですか?」
そうして、店を出ることにした。
「そうですか、わかりました。ですが私で良ければ、お話聞くだけでも聞きますので、いつでもおいでくださいね」
優しい笑顔で、その女性店主は見送ってくれた。
(このお店は、あんな感じで相談相手になったりするから、ここは女性が多いのか?)
いつもの私らしくないことを、また、してしまった。
人前で涙を見せるなんて。
(あいつに会ってから、私は、おかしい)
もう、暗殺者としての私は、あいつに出会った時には、終わっていたんだ。
(でも、私があいつを好きになっているなんて。そんなの、ありえない)
私は、宿に戻った。
考えを整理しようと。
皇国に逃げたのだとわかった時に、潜入して命令を継続しようと考えていた。
しかし、皇国と揉めている状況では、迂闊に潜入してバレた場合、戦争の火種になりかねない。
秘密裏に成功すれば、それでも良いかも知れないが、皇国の守りは固い。
親方様でも、潜入は無理なのだ。
だから、暗殺が失敗することのないよう、親方様は私を選んだ。
その命令で、私を失うことになるとしても。
だが、その私が、この有様だ。
親方様を、失望させたに違いない。
でも。
もう、そうは言ってられない。
聞きたいこともある。
私は、会わなければならないのだ。
今夜、決行しよう。
私は、荷物をまとめ、仮面を付け、服装を着替えて宿を引きはらった。
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