10/26 退屈な終末

「ねえ、今日で世界が終わるそうね」

「そうらしいね。ほら、向こうの方、明るくなってる」

「ほんと。もうすぐこっちまで来るかしら」

「もう少ししたら来るだろうね。空がどんどん明るくなっている」

「ねえこれ、花火だったら良かったのにね」

「花火・・・そうだね。これが花火ならどんなにいいだろうね」

「似てるのは音だけね。つまらない」

「はははそうか。つまらないか。まだつまらないって言ってられるのか」

「言えるわ。わたしあれが近づいて来てもつまらないって言ってやるわ。つまらないつまらないああ退屈うんざりよって言いながら逃げまくって、どうしようもなくなったら手を空に向けて広げて、死んでやるわ」

「そうか。それはそれは勇ましい死に方だね」

「どうせ出来ないと思ってるんでしょう。わたしやってやるからね」

「僕もその時は付き合うよ。それまで生きて歩けていたらの話だけど」

「あら、無理しなくていいわよ。人には人それぞれの死に方があるの。あなたの足が駄目になったらそこがあなたの死に場所というだけよ。運命に逆らっちゃだめ。自慢の足もそれ以上困らせちゃだめ。今まで酷使してきたんだもの。それ以上わがまま言っていじめたら、かわいそうよ」

「はははそうか。でも君は自分の身体を、最後までいじめ抜くんだろう」

「当たり前よ。そもそもこんなの、いじめの内に入らないわ。あたしの身体はそんな泣き言、言わないわ。最後まであちこち飛び回って、暴れまわって、もうこれまでと思ったら糸が切れたようにふっと、止まるだけ。突然、前触れもなくね。だから相手は何が起こったのか分からない。自分の攻撃が当たった訳でもないのに私が勝手に倒れたから。意味が分からないわよね。そして気味悪がるわ。それで私の身体に近づいて、証拠のために首や手首を切り取ろうとするの。その頃にはわたしの魂は、わたしの身体から抜け出してそのおぞましい光景を見下ろしている。そんな無駄なこと、あんたたちなぜやるの、という感じでね。実際分からないのよ。ただの抜け殻の一部を切り取って、勝手に勝った気になって持ち帰る行為の意味が」

「あいつらにとってはそれが勝利の象徴なんだよ。象徴を切り取って辱めることで捕虜の生きる希望を削ぐ」

「士気を下げると言ってちょうだい。あああの子達、懐かしい。元気でやってるかしら」

「元気な訳ないだろう。捕虜なんだから。お前の助けを今もあそこでずっと待っているよ」

「それも叶わぬ夢ね。夢が叶わないことを教えるのは、つらいわ。態度で示さなければならない分、余計にね」

「そうだな。・・・なあ・・・・・・もう一度だけ賭けてみないか。そうしたら」

「無理よ。無理。もう何度もやったじゃない。そしてもう遅いわ。空があんなにも赤い」

「俺達武人の意地というものがあるだろう。お前にはないのか」

「あいにくわたしは下層の浮浪者くずれの生まれなの。そんな意地はないわ。だから死の準備をしているの。こんな風に、言葉遊びでね。わたしが死んでも言葉は残る。こんな風に飄々と死んでいった人間がいるということ自体が、希望になるというものじゃない」

「生きろよ。共に生き残ろうぜ」

「ううん無理よ。だって知ってるでしょう。もう飛行機も一人乗りのものしかないわ。それでも行くというのなら、止めないけど」

「俺は行くぞ、一人でも」

「勝手にしてよ。行くがいいわ。一人で行ってよ。わたしもう疲れたから。ここで見てる。わたしの身体がもうここに留まりたいって言ってる。向こうの子達にもし会えたら、ものぐさなわたしがそんな風に言ってたって伝えてよ。あの子達の呆れる顔を想像してわたしここで暇を潰してる。あまりにも暇だったら暇潰しがてら、遊んでやるわ」

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