9/23 やわらかい布団

「今日はお前にプレゼント持ってきた」

「え? なに? 引っ越し祝いってこと?」

「そうとも言えるしそうでないとも言える。つまり、これをどう捉えるかはお前次第や」

「なんかもったいぶった言い方やね。でもこっちもそれなりにお前と付き合ってるからその言葉自体を深く捉えたらお前の思う壺ということはもう分かるわ。大方テレビで陰謀論話すお笑い芸人でも見たんやね」

「そんなん言うんやったらもうやらん。前言撤回や」

「・・・嘘やうそ、友達のよしみの冗談やん。で、なにそれは? 妙にでかいな」

「俺の両手では抱えきれんほどの大きさや。というかはよ手伝え。倒れるわ」

「おおすまんすまん。これは、布団か」

「そうや、お前が新居第一日目から寝床に困ると思ってな」

「おお、前の寝床を腐らしたことを覚えてくれてたん?」

「当たり前や。寝床にきのこを生やすやつがおるか」

「ここにおるよ。あれはきのこをあえて栽培してたんや。ほらおれ農学部やし、何気に勉強熱心やから大学のビニールハウス以外でも栽培魂が炸裂したんよ」

「・・・まあそれはお前の自由やが。とりあえず色は茶色にしてみた。お前の好きそうな土色で気をつかってみたんやけどこれでええか」

「ええよ。ええ感じのやわらかい土色やね。まさに栽培に適してるわ」

「まあ気に入ってくれたならええわ。で、これが枕」

「おお緑色やん。これはまさに生えてきた所やね」

「さすがにベージュやダークオレンジは露骨すぎると思ってな。そして不吉やしデジャブや。これはあかん」

「さすがやね。まさにおれの深層心理を読んどる。して、これは?」

「これはスリッパ。太陽そのものの日の丸柄や」

「おおすごいな。てかどこで買った、というか大方作ったんやろなお前のことやから。ええねええね。まさに一日の日の光の恵みがこれで可視化された訳や。裏を返すと、おおこれは、月やね。裏側にも手を抜かんさすが家政部裁縫男子のお前や」 

「お世辞はええよ。で、これが最後の肝心かなめ」

「お! これは箱型で重い!! 開けてもええ?」

「おう開けあけ、コーヒーセットやちょっと高い詰め合わせ。なあお前この布団でがっつり寝たらこれ毎朝飲んでしゃきっと目ぇ覚まして大学来いよ。聞いたぞ今年一限からがっつり必修入っとって一単位でも落としたら留年らしいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る