11/19 静かな嵐

内に秘めた怒りほど恐ろしいものはないという言葉がある。滅多に怒らない人の怒りが爆発した時の凄まじさを代弁した言葉だ。そういう人の導火線に火をつける行為ほど愚かなものはないから、大人しい人ほど怒らせてはいけないという教訓めいた表現だ。

だが、それは真理なのだろうか。私は知っている。人がその言葉を語る時、往々にしてその人本人が、言及されている「怒らせてはいけない人」になりたがっていることを。

なぜ分かるか。端的に言うと、アンバランスだからだ。不特定多数の「その人達」に怯えている振りをしているのに、目の奥は得意げに笑い、口元は無防備ににやけている。用心深い自分に酔っているのだとしたら、なぜもっと慎重にならないのか。本当は気づいて欲しいからだ。その「怒らせてはいけない人」が自分なのだと。自分が言う前に察して気づいて欲しいのだ。あなたも私と同等の個を尊重されるべき人なのなら、その位は朝飯前だろうと、心の底から期待しているのだ。

知り合いとして期待している。友達として期待している。恋人として、家族としてもう一人の自分として期待している。

・・・思わず笑いそうになった。なんて独善的な欲望だろう。

言っては悪いが、あなたがなりたい姿と実態とは程遠い。あなたと同等と期待されている私の心が思うのだから間違いない。こうとしか思えないのだから、あなたもう、逃げようがないのでは?

ねえ何度でも言ってあげよう。あなたは独りよがりで、愚かで、そして醜い。ああ今顔をしかめたね。もう怒ろうとするの? ねえ早すぎない? あなたは怒らせてはいけない人、なんだよね? だったらもう少し我慢しようよ。そうしないと文字通り嘘吐きになってしまうよ。

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