緋色の王~社畜のレトロゲー好きなおっさんがモブ三男貴族に転生して追放された公爵令嬢と婚約ってマジ?~

ナナ=ブルー

レッドフォード事変

第1話:死して屍拾うものなし


 疲れた、眠い。


 俺の一日を総括すると、こんな感想しか出てこない。

 今は深夜4時。もはや「明け方」と言っていい時間帯である。


 大矢おおや謙斗けんと37歳。独身、彼女なし。四畳半アパートに住んでもう17年。


 毎日毎日、朝6時から深夜3時まで会社に拘束されているせいか、最近視力の低下と身体の重さがごまかせなくなってきていた。

 頭痛や耳鳴り、鼻づまりに肩こりなど、慢性的な不調が身体から離れようとしない。


 最後に有給取ったのいつだっけ?カップラーメン以外、ここ数年食ってないな。

 まあそんな毎日である。


 いいかげん心に余裕がなくなってきたため、部屋に帰ってきて早々、しわくちゃのスーツを脱いでジャージに着替える。


「たまには息抜きしないとな」


 ボソリと呟いて、ディスプレイにつながれっぱなしのゲーム機を起動する。

 もう20年前から使い続けているマシンだが、ずっと動いてくれる。俺の相棒とも呼べるほど愛着ある存在だ。


 画面にロゴが出る。〈ウィズダム戦記〉。見慣れたロゴデザインを見てようやく家に帰ってきた心地がする。


「今回は……ラスボス最速攻略でもするか……」


 待てよ、あのバランス崩壊アイテム有りでやるとあんまり面白くないから封印するか?

 明日、あの取引先に連絡入れないとなぁ……あそこの社長、横柄で嫌なんだよなぁ……。

 いいや、もう全部アリだ!ゲームでくらい、むちゃくちゃやってやる!

 あ、そういや先輩から言われてた仕事忘れてた……。明日怒鳴られるな……。



「はぁ――――――……」


 深い深いため息が出る。

 ゲームの世界ぐらい仕事の事は忘れたいのだが、いかんせんタスクが多すぎて精神的に崖っぷちすぎた。


 ゲームが開始され、主人公の名前入力画面をスキップし、いつも通りデフォルトネームで開始。

 重厚な音楽と共にオープニングが開始され、最初の戦闘が始まり、俺の視界は暗くなってくる。


 いつもこうだ。


 こうやって眠りに入っては、またすぐスマホのけたたましいアラームに叩き起こされて仕事に行く。


 ああ、俺はいつまでこんな毎日を送るんだろう?いつまで……

 いっそのこと、ゲームの世界にでもいきたいなぁ……。

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