第2話

 陽太は月代の兄ではあるが、血は繋がってはいない。

 月代の父親の再婚相手の連れ子が、陽太だった。

 月代の実の母親は、月代が幼い頃に父親と離婚して家を出ている。

 兄妹のいなかった月代は、母親が出て行ってからは随分と淋しい思いをしていたものだった。

 だから、父親が居て、母親が居て、おまけに兄までできたことは、月代にとっては嬉しくて仕方のない事だった。

 新しい母親は月代を実の子のように可愛がってくれたし、兄の陽太に至ってはシスコンと呼んでも差し支えないくらいに、月代を構い、可愛がった。

 新しい母親も、初めてできた兄も、月代はすぐに大好きになった。


 この幸せな時間は永遠に続くものだと、当時の月代は思っていた。

 今まで、淋しい事も大変な事も、小さな月代は頑張って耐えて来たのだ。

 自分を育てるために、夜遅くまで頑張って働いてくれている父親の姿を見れば、ほんの小さな我がまますら、月代には口にすることができなかった。

 だからこそ、神様が自分にご褒美をくれたのだと、月代は信じていた。

 けれども。

 月代の父親が陽太の母親と再婚をして2年が過ぎたある日。

 陽太の母親は交通事故に遭い、返らぬ人となった。

 陽太の母親は、月代と手を繋いで横断歩道を渡っていただけだった。

 信号だって、青信号になるのを待って渡ったのだ。

 それなのに。

 信号無視をして横断報道に突っ込んできた暴走車の犠牲になったのだ。

 自分の身を挺して幼い月代を突き飛ばし、暴走車から遠ざけて月代を守るために。


 月代はこの時初めて見たような気がした。

 いつでも明るく元気な、太陽のような陽太の泣く姿を。

 陽太の実の母親が亡くなったのは、自分のせいだ。

 子供ながらに自分を責める月代を、陽太は泣きながらそれでも違うと言い聞かせた。


「月ちゃんは何も悪くない。月ちゃんだけでも無事でいてくれて良かった。これからは、俺が月ちゃんを守るからね」


 陽太の手前、我慢に我慢を重ねていた涙が、堰を切ったように溢れ落ちる。

 月代は陽太にしがみついて、わんわん泣いた。

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