27 魔王様たちと密談


 魔王様の執務室で人払いをして話を始める。こちら側からはクリス殿下とダールグレン教授、梨奈とジェリー。あちら側は魔王様と四天王様方。


「ところで今日来たのはほかでもない、この魔道通信装置についてですが」

 クリス殿下がさっそく話始める。

「ジジの奴は、召喚にしても魔法陣にしても、誰にも渡さんで、一人で囲い込んでおったからな」

 宰相のドナティエン公爵が苦り切った顔で言う。

「一人で考える事など高が知れておる。使いようなど幾らでもあろうに」


「おぬしの連れておるスライムだとて、いくらでも作れる」

 アバダー卿が胸を張る。

「いや、それはさすがに不味いだろ。ジジ殿は、エサにこちらの者だけでなく、召喚した者を……」

(あのオンナ!)

 言ったステッド女候爵を、ドナティエン公爵とベルナドット伯が肘で突いている。

「そのスライムは元々イレギュラー、二度と出来まいよ」

 魔王様が結論付けた。


 話がジェリーの方に行ったので、梨奈の側にちょこんと座っているエルフの頭を撫でる。

『主ー』

 スライムエルフは猫みたいに目を細めた。

 梨奈はこの前、毒を盛られたけれど、あの時は殿下とジェリーに助けられたんだ。スライムは魔物だけれど浄化などに広く使われているという。医療などにも使われているのかしらと、ちょっと思った。



 ジジの残したものに、ヒロインの着ぐるみに付いていた魔法陣があった。

 この世界にはまだ電話というものはなくて、手紙を書いて、鳥みたいに飛ばすのが一番早いらしい。

 あの魔法陣を使って、相互通話できるものを作る。というのが今回来た大きな主目的だった。


 魔法陣の写しを取り出して、クリス殿下が説明する。

「ジジはジェリーの身体に直接魔法陣を描いていた。神出鬼没の転移も魔法陣を描くことで出来る。実際に私もこの地に転移してきた。スライムの素材はここにある」

 殿下はシャーレを取り出した。コロンと丸いスライムのかけらが入っている。


「ただ陛下も仰った様に、このスライムは非常にレアだ。汎用に使うには危険すぎる。何か代替えになるような物で出来ないだろうか」

 魔王様はしばらく、シャーレの中のスライムの細胞を手に取って調べていた。

「出来る」と魔王様は言う。

「まあ、品は劣るし、転移も出来ぬが」

「出来たら、少しばかりでよいので、早くに融通してほしい」

「戦か」

 殿下は頷く。

「あなた達には迷惑はかけない」

「ふむ」

 魔王様はしばらく考えていたがふと言った。


「リナを我が養女に迎えたい」

「え」

「あの、不毛の大地を見たであろう。あの地で流した女神の涙ゆえ、大地は潤い、草木は芽吹いた」

「いや、でも私の涙って、ちょろっとだけで──」


「あの地は女神の力を待っていたのだ。戦に行くのなら、我が娘としてこちらで預かろう。この大地も潤うだろう。お前も安心して行けるだろう」

 魔王様がそう言うと、クリス殿下が身を乗り出す。

「陛下の養女となるならば、今、ここでリナと婚姻を結びたい」


「戦に行くのだろう?」

「その前に──」

 魔王陛下に向かい片膝をついて言う。

「その方法を考えていた。陛下の養女になるならば、だれも反対できない」

 驚いてクリス殿下の顔を見つめる。

「前にスライムが言った。情交をすれば彼女をこの地に引き留められると。何かあればこちらを捨てて帰ってしまう。私はどうしても引き留めたい。それはあなたたちにとっても良い事ではないか」



(私、まだ帰れるのかしら──)

 すでに両親の顔も、友人たちの顔も遠い。

(みんなの顔も、すぐに思い出すかしら。お父さんお母さんに、たくさん叱られて、戦争も、毒殺も、魔物も、周りにない世界に戻れるかしら。魔王様も、エルフも、スライムもいない世界に、戻ることが出来るのかしら──)



 梨奈の身体がボウと滲んだように透ける。クリス王子の手が伸びて、梨奈の腕をつかんだ。

 驚いたようにみんなが二人を見ている。

 気が付いたら、クリス殿下に抱きしめられていた。


「お前は、人が大事な話をしている時に──」

「だって大事すぎるじゃない。私はまだ高校生なのに、決めてしまっていいの? 怖いじゃない。帰って、親に──」

「帰るな!」

「目の前に本物の王子様がいて、結婚したいって。嘘みたいじゃない? 夢の続きを見ているのよ、きっと」

「夢であんなことや、そんなことをするのか!」

「うっ……、だって、殿下がとても辛そうだったから……」

「辛そうにしていたら、誰でもいいのか!」

「殿下がひどい!」


「いい加減にせよ」

 魔王様に叱られてしまった。

「我ら魔族はまだ、多くの人にとって恐怖の対象だが、王族の身でよいのか」

 クリス殿下は黙って頷いた。

「まあ良い、お前になら、くれてやってもよい」

「感謝申し上げる」

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