幕間 スライムジェリーの誘惑


 その夜、クリスティアン王子が教授たちとの打ち合わせや議論を終えて、浴室で寛いでいると、天井からポットンとスライムが落ちてきた。

 梨奈ほどには驚かないが、さすがに嫌な顔で睨む。


『王子ー』

 ジェリーはいつもの呑気な声で言う。

『オイラ、思い出した―』

 クリス王子は黙って続きを促した。

『アレからー、フェロモン食べてない―』

「……!」

 王子も思い出した。

 梨奈と何もしていない。いや、キスはしたが、一緒に寝てもいるが。


 今日も、ソファでちょっと悪戯をして、中途半端に止めてしまった……。

『そう、それでー、思い出したー、忘れるとこだったー』

 そう、そこで中断してしまった。梨奈はまだ病み上がりだし、皆が来てそちらに気を取られてしまった。


『女神、放っておいていいのー? 帰っちゃうかもよ―』

「自分で帰れるのか!?」

 衝撃の事実であった。


『女神だからなー、何かきっかけがあったら、帰れるんじゃないの―』

「そ、それは困る」

『だーかーらー、フェロモン出してー、引き留めて―』

 スライムがプルプルと悪魔の囁きをする。

『ウィン、ウィンー』

 変な掛け声も入れる。

 引き止めなければいけない。王子は拳を握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る