07 クリス王子の悪夢
もう食事は終わっていてテーブルは片付けられていた。殿下は着ぐるみの置いてある方を避けて梨奈の隣に座る。
「夢を見たのだ。国を滅ぼされる夢だ」
梨奈の手を取り話し出した。深刻そうな顔で恐ろし気なことを話し出されて、梨奈はそのまま生唾を飲み込んでクリス王子の話を聞く。
「夢は学校に通っているところから始まる。
やがて、可愛い女が中途入学してくる。夢の中の私はその女に魅せられ、それは王宮を巻き込み、そして隣国が攻めてきて国は崩壊する。
二度だ。
この五年の間に、二つの国が滅ぼされた。
一つは姉上が嫁いだ国でもあった。あまりにもリアルな夢で、国を滅ぼしてしまった悔恨と悲哀と怨念とが、私の胸に流れ込む。
その女を我がノイジードル王国の学園で見た時、私は絶望に襲われた。もはや、数々の貴族子弟にかしずかれ、嫣然と笑う女になす術もない。
それでも私は魅了除けのアミュレットを作った。これでもかと作って側近にも学友にもばら撒いた。しかし、その防御を突破し、あざ笑うように、私は魅了にかかった」
クリス殿下は重い溜息を吐いて口をつぐんだ。
それから口調を変えて続ける。
「夢か現か悪夢のような世界だった。
だが、君が現れて夢が覚め、意識がはっきりした。
君はまるで女神だった。愛とエロスと豊穣の女神」
クリス殿下は梨奈を抱きしめ、慈しむように髪を撫で、その手は頬に降りる。
「私は君を待っていた」
キスは頬に顎に額に落ちる。
(いや、何をしているんだ。何をするんだ!)
梨奈は王子を睨みつける。
「可愛い……」
しかし、クリス王子はにっこり蕩けるように笑って、耳に囁く。
(何で……? 身体の力がどわっと抜けるんだけど──)
押しやろうとしたけれど、覆い被さる王子は軽々と梨奈の抵抗の手を掴んで封じる。カウチの着ぐるみの上に押し倒された。
「君は女神だ、地上に堕ちた女神。愛とエロスと豊穣の女神。君は私の前に現れたんだ」
当然のように、殿下の唇が唇に落ち、何度も口付けられている内に、口をこじ開けて舌が口中に侵入してきた。ワイン味のキス、果物味のキス。
(味わっているんじゃなーい。わーん、エロ王子だー!)
口の中に性感帯があるなんて、頭はぼうっとするし、身体は熱いし。梨奈はクリス殿下の身体にしがみついた。
「私は君を捕まえてこの地上に引きずり降ろし、帰れないように閉じ込める。私の為に、この国の為に、この世界の為に、この腕の中に──」
(いや、愛と豊穣とエロスで、どうやって救うんだよぉぉーーー!)
「まだ魅了にかかっているの?」
「私に魅了をかけて何がしたい?」
「へ? いや、あの……」
(ど、どっちが魅了をかけてるんだよ!)
「リナ……」
耳朶を軽く噛んで舌を入れて息を吹きかける。
(わーん、私の根性なし! キスだけでアプアプなのに耳に囁くのヤメレー!)
梨奈は藻掻いてカウチの背もたれに手を伸ばした。そしてこんな時に気付く。
(はっ、このカウチって、もしかして、よく絵画で見るご婦人が裸で横たわっているアレじゃないかしら??)
そう思ったらますます梨奈の頭が熱を持った。長椅子に押し倒された梨奈の胸に王子の手が乗っていると思ったら、それが部屋着の中に忍んで来た。
乳首に指が到達する。
「んんっ……!!」
(ちょっ、胸触ってる! うぎゃ!)
乳首を摘まんで指でくにくにと転がす。身体が跳ねる。
(ダメ、経験値無し。わーん、エロ王子)
経験値のない梨奈の身体がすぐに白旗を揚げる。
(熱いよ、動けないよ、これなに、エロ王子。何か変、抵抗したくない、気持ちいい……。胸が出てるみたいなんだけど……。頭が熱い……。身体が熱い……。
王子の手が梨奈の胸を揉んでいる。胸にキスまでされている……。あ、あ……、気持ちがいい……)
「い……やっ……、何で……」
「リナ……」
(うっく! 囁くなっ! コノヤロー!!)
「かわいい……」
「やっ」
ちゅ。
こうして梨奈は異世界の王子様に美味しくいただかれてしまうのでした。
その時──、
梨奈の下敷きになっていた男爵令嬢の着ぐるみが、ドロドロと解けるように床に落ちていった。
『うぃーー……』
なんか変な声がする。
床に落ちた着ぐるみは、ふらふらとそこらをさ迷った後、ぐにゅんと伸びてしまった。
『うぃー、フェロモンに酔ったぁーー、こんな美味いの知らなぁーいー…』
王子と二人、呆然と床にぐにゅんと蠢いている物体を見る。
(コイツ何?)
何なの? この展開。
梨奈はハッと我に返った。
慌てて胸の下にずれ込んでいた部屋着を引っ張り上げて着る。真っ赤に染まった顔でクリス王子を睨んだけれど蕩けるように微笑まれた。
(くそう、エロ王子め)
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