16.君が好きで/おくとりょう

作品名:君が好きで

作者名:おくとりょう

性癖:人間の造形

性癖:自己否定

性癖:醜悪なキャラの中の私

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330656305148402


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 一作目は空と土とおてての作品を投稿頂いたおくとりょうさんの二作目です。

 筆が早いというのはそれだけ沢山の性癖小説を世に出せるという事なのでとてもいいですね。筆の速さは思いの強さにも繋がり、作品が多いのは性癖の深さにも繋がります。おくとりょうさんは立派な性癖表現者パッショナーですね。


 こちらの作品は記述トリックの様になっていて、冒頭から相手の事を好きだと言いながら人体の美しさを語り、相手が自分の事を卑下しても居るだけで自分の為になると優しく聡し、愛を確かめようとする姿を子供を扱う様に寝かしつけたのが人間では無く多腕でぬめぬめした池の近くに住む存在だったというものです。

 異種間物として丁寧に作られた作品であり、異種だからこそ『人間の造形』に惹かれて自分を醜い外見だと『自己否定』をしており、異種だからこそ今の環境では何もできない自分を『自己否定』しているという、お互いにお互いの長所を見て自分を卑下しているマイナス方向の両想いな物ですね。もう少し踏み出して気持ちを素直に伝えればいいのに、そうすると大事な物が壊れてしなうのではないかと勘違いして踏み出せないでいるという感じでしょうか。このもどかしさが恋愛物の良いところです。

 又、異種間物ともなれば触れただけで本当に壊してしまう可能性がありますし、ましてや育ての親ともなれば他の選択肢がない状態で自分に依存させているから好かれているのであって、広い世界を知られた時に自分は老いて行かれるのではないかという心配もあります。

 異種とはいえ心が通じる優しい相手だからこそ生まれたもどかしさですね。とても丁寧な薄氷の上の依存関係でこれからどうなるかワクワクうしてしまいます。


 と、異種間恋愛物として見てもレベルの高い性癖小説なのですが、三つ目に提示してある『醜悪なキャラの中の私』という性癖を意識してからこの作品を読むと、また変わった見方が出来ます。

 『醜悪なキャラの中の私』というのは恐らくはこの作品に出てくる醜悪なキャラの心の中に作者自身である自分が居て、そのマイナス方向の考え方は自分と共感する物だという事なのでしょう。作品のキャラクターというのはどんなキャラにも作者の考え方が反映されている物で、意図的に違う考えを持たせない限りは作者の一部と言えます。だからこそ、自作に出てくるキャラは善良なキャラでも醜悪なキャラでも作者の心の一部を反映していると言えるのですが、おくとりょうさんはこの『醜悪なキャラの中の私』を性癖にされていらっしゃいます。

 という事は、自作のキャラが持っている負の感情。今作で言うと人間の造形に対してのクリーチャー側の憧れ、クリーチャーの有能さに対しての人間側の憧れのそれぞれを自身の感情と認め、キャラクターを自分の鏡として見る事その物に性癖を感じているという事です。

 分かりやすく言うと自作のキャラを通して自分自身に興奮している訳です。つまりはエゴのリサイクル。なんという環境に優しく、そして深すぎる性癖なのでしょう。

 他者に作品を見せるにはまずは自分が自作を好きにならなくてはいけないという話がありますが、それを通り越して『醜悪なキャラの中の私』が好きと主張されている。無敵ですね。タコはストレスが溜まると自分の足を食べてストレスを解消すると言いますが、そういう事なのでしょうか。


 ただ、一つ前の偽教授さんの作品もそうでしたが、この『醜悪なキャラの中の私』という性癖は他者には分かって貰う事が難しい性癖になり、今作はおくとりょうさんが楽しむための性癖小説としてのレベルは高いのですが、性癖小説選手権としては評価が難しい作品となってしまいます。

 他の二つの『人間の造形』と『自己否定』という性癖をアピールすることは出来ていますが、作品的には『醜悪なキャラの中の私』という性癖が一番強いように思えます。

 決してダメな作品という事では無く、性癖小説としてレベルが高すぎるからこその性癖小説選手権での評価の低さだと思って下さい。最終的には自分だけが楽しめる作品を書く事が性癖小説の目標みたいなところがありますので、その点ではおくとりょうさんは百点満点です。


 異種間と自己否定の中に潜むおくとりょうさんの深い性癖を感じることが出来る作品でした。

 性癖表現者パッショナーとしてのおくとりょうさんの今後が楽しみですね。自分と深く向き合う求道者になるのか、他者を沈める教祖となるのか、楽しみに拝見させていただきます。

 二作目の投稿ありがとうございました。

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