第30話 プリズナーズ
「──はっ、はぁっ……!」
文字通り、俺は風を切って走る。俺は廃病院から出て、仙台市内まで全力で県道を戻っていた。
「何あれっ!?」
「特撮っ!?」
時たますれ違ったり追い越す一般車の中からそんな声が漏れ聞こえてくる。まあそりゃ人間が車よりも速く走ってる姿が見えればそんな反応になるだろうよ。でも俺に、なりふり構っているヒマなんてない。
……一刻も早く
ツバメは
……手遅れになんか、させるものかっ!!!
俺はものの5分程度で泉ヶ岳から仙台市内へ。JR仙台駅までやってくる。そして行きと同じく新幹線はやぶさへ乗車。
「行け行け……! 速く速く……!」
1時間あまりで新幹線は仙台駅から埼玉の大宮駅に到着。俺はそこで降りると、駅ホームの床を踏み砕かんばかりの勢いで蹴りだし、宙へと舞う。
──ざわっ! とその場にいた人々が騒ぎ立てる音が聞こえるが気にしない。
……なるようになれ、だ。動画を録られて拡散されようが、それで俺の正体がバレようが、何よりも優先すべきは
俺は魔力を込めて駆け出して、大宮駅から高尾駅まで10分ちょっとで駆け抜ける。時速200kmを維持しての高速移動だった。
「はぁっ……はぁっ……さすがに、疲れる……っ!!!」
これ以上は魔力も酷使し過ぎになってしまう。大人しくそこからは電車に40分ほど揺られ、午後1時40分、俺は大月駅へと降り立つ。
「……仙台駅から2時間程度で富士山の一歩手前まで来るとか……なかなかな事してるな? 俺……」
なんてひとり呟いていると、
──バババババッ!
というやかましい音が頭上に鳴り響く。見上げれば、そこに飛んでいたのはニュースなどで見たことがある機体──オスプレイがそこにはあった。
「……はぁ。こんな時にまた、刺客かよ……」
……オスプレイって確かアメリカの軍用のヘリだよな? ってことは東北道のデルタフォースに引き続き、2回目のアメリカの襲来ってわけか?
オスプレイは大月駅前のタクシー広場の上でその機体を一時停めたかと思うと、その後ろのドアが開く。そこからパラシュートで空挺降下してくる者たちの影。
「──なっ、なんだぁっ!? 恐っ……!」
「──動画っ! ちょっと動画撮って!」
「──なになにっ? ヤバいヤバい! えっ、ニュース観よっ!?」
大月駅前は休日だからか、車で来て休憩をしている人々が多かったようで、突然のオスプレイ騒動に蜂の巣でも突いたかのような騒ぎになっている。しかし、みんな怖いもの見たさでか、スマホカメラをオスプレイへと向けたまま逃げようとしない。
……まあ、渦中の当人である俺は逃げるんですけどね。構ってるヒマとかないし。
というわけで俺はなるべく群衆の注意を向けられないよう、目立たぬように駆け出して、タクシー乗り場を抜け出ようとした──が。
──プシュゥルルルッ!
「へ……っ?」
オスプレイに付けられていたロケットが、俺めがけて飛んできた。
「っ──!!!」
俺はとっさに【
「いっ────いやぁぁぁぁぁっ!!!」
大月駅前タクシー乗り場へと、悲鳴が響き渡る。
「──うわっ、攻撃してきたっ! ヤバいってヤバいってッ!!!」
「──逃げろッ!!! マジで死ぬッ!!!」
「──警察っ、SNSっ……って、電波ぜんぜん繋がらねぇッ! どうなってんだ!」
野次馬だった人々が一斉に駆け出して、タクシー乗り場から逃れようとする。オスプレイはどうやらその群衆には興味がないらしく、それ以上は何もしない……にしても。
「……どれだけ犠牲が出ようが構わない、みたいな意思を感じるぞ……!?」
俺は【
「……クソッ。結局相手にするしかないのか……!」
早く小室山へと駆け出したいが、今みたく周りを気にせず攻撃されてしまっては敵わない。せめて周辺住民の避難が終わらないことには……
「──ハァァァ、移動キッツぅ~~~」
オスプレイから空挺降下してきたひとりが、パラシュートを取り外すやいなや愚痴る。女だった。ひと目見て美女であるということは分かる……しかし、その身にまとう雰囲気は禍々しい。
「文句を言うなよ、【ホリッカー】。鎖で繋がれっぱなしの牢獄に比べりゃ快適だろ」
隣に降り立った男が言う。スキンヘッドで、引き締まった体をしている軍人のような見た目だ。
ホリッカーと呼ばれた女はその男を「フン」と鼻で笑う。
「アタシはねぇ、【ブラック・ブライト】、アンタたちと違って好待遇なのよ。なんせちょぉっとサービスしてやるだけで、看守共が良い部屋用意してくれるんだもの」
「ああ、そうかい。どこもかしこも汚ぇ。根が腐ってやがる」
「そ。でも腐ってるくらいが美味しい思いができるって言うじゃない? こんな辺境まで連れて来られてさァ……観光ができるってんならまだしも、兵隊さんたちが見張ってるしィ……ハァ」
ホリッカーは再びため息をひとつ。
「と・に・か・く、アタシは早く愛しのその腐り切った部屋に帰って惰眠を貪りたいワケ──ちょっと、【バブルマン】! 何モタついてんの。あんたも早く降りてきなさいよッ!」
未だにパラシュートでユラユラと揺れながら降下してくるバブルマンと呼ばれた色白のナヨナヨした男は、青い顔をしながら足をジタバタしていた。
「こ、こ、怖いよぉ」
「着地の方法ならさっき教わったでしょうが!」
「わ、わ、わかってるけど……ウゥッ!!!」
ベシャリ、と潰れるような音を立ててバブルマンが着地する。というか潰れて……血色の泡になってる。
「うぇ、キモ……」
「おい、バブルマン。ちゃんとしろ」
「ぶぅ……」プクプクプク
その泡が盛り上がり、再び人型になったかと思うと、そこから再び先ほどの色白の男が現れた。
……なんだ? コイツら。
それが正直な感想だ。軍人なら軍服が、民間人を装っているならそれなりの恰好があると思うが……目の前のその3人からはそういった統一感がまるで感じられない。
オスプレイから降りてきたところを見るに……米軍関係者だと思っていたのだが、違うのか……?
3人がパラシュートを外すと、俺にゆっくりと歩み寄ってくる。
「あー、君がコウ・マルヤマで合ってる?」
ホリッカーと呼ばれていた女が気さくな感じで俺に話しかけてきた。
「ってか英語分かる?」
「……ああ」
「あ、そ。よかったよかった。じゃあ単刀直入に言うんだけど、君には死んでほしくって」
ニコニコと、何の悪気もないかのようにホリッカーは言う。
「アタシたちさ、お偉いさんから言われてんのよね。コウ・マルヤマを殺せたら刑期半分にして、さらにお願い事ひとつ何でも聞いてあげる~ってさ」
「刑期……?」
「そ。アタシたち囚人なのよね。本来なら死刑確定のさ。でも、たまにこういうワル~い使い道があるから生かされてんの。アタシはホリッカー。懲役200年ちょい。男漁りして、アタシに
「200年って……」
そういえば聞いたことがある。日本とは違ってアメリカは、重ねた罪によって懲役年数も加算されていくようなシステムがあると。
「で、あっちの軍人崩れがブラック・ブライト。懲役が400年。暗器大好き
「……」
「まあ、そんなわけで刑期が半分になるっていうのがバカにならなくてさ。100年以上縮まるんだから最高~! って感じなわけ」
ホリッカーが大きく肩を竦めてみせる。
「だ・か・ら……ねぇ、コウ、アタシと取引しない?」
ホリッカーはひとりで俺に急接近すると、甘い吐息をかけてくる。ワザとらしいブルーベリーの香りがした。
「今日1日付き合って、アタシがコウをいろいろと気持ちよくしてあげるからさ~……アタシに殺されない? たぶん世界で一番いい死に方ができると思うのよねぇ~」
「断る」
即答すると、ホリッカーはスネるように唇を突き出した。
「言っとくけどアタシに殺られとくのが賢明よ~? あの男ふたりの手にかかるの、絶対痛いんだから──」
「──あ、もういいんで。いい具合に時間も稼げたし、俺そろそろ行くから」
「はっ?」
疑問符を浮かべたホリッカーの正面で、俺はとりあえず初手として、魔力を込めた足で宙へと大きく跳びあがる。頭上に居座るオスプレイへと目掛けて。
「ロケットなんて危ないもん装備して飛びやがって……軍事行動で一般人巻き込んでんじゃねーよ!」
俺は右拳に魔力を集中──機体へと【
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