第31話 案内人
オスプレイが墜落し、タクシー乗り場で爆散する。黒い煙とオレンジの炎に包まれつつ……俺はオスプレイ乗っていた搭乗員たちの首根っこを掴んでは安全圏へと投げていた。とりあえず、全員命に別状は無さそうだった。
「……はっ?」
「……オ、オ、オスプレイを、一撃……?」
「ミサイルか何かかよ、あの少年」
ホリッカーたちは3人とも俺の方をポカンとした表情で見るだけだった。
……さっさと終わらせたいし、何なら俺が救助活動してる間に襲い掛かって来てくれた方が時短でよかったんだけどな。
「さて、じゃあ……やるか」
全員救助し終わったので、俺はあらためてアメリカからの刺客の3人へと向かい合う。恐らくはE.H.Aなどと同様、特殊能力者の囚人たちで組織された秘密部隊のようなものだろうから、油断はしない。
……特に、バブルマンとかいうやつは要注意だ。衝撃を与えられたら泡になって復活するし、その際に泡の触れた地面が一部蒸発したように消えるのが見えた。安易に振れるのはマズい。
「まずはブラック・ブライトとかいうヤツから──」
俺が3人への距離を詰めようとしたその時だった。
「待ったぁっ!!!」
ザッ! と、ホリッカーが1歩前に出るやいなや──
「降参っ! ギブアップッ!」
そう宣言すると、両手を挙げて膝を着いた。
「……えっ?」
「ギブアップ! ギブアップ!」
「……まだ何もしてないんですけど」
「何もしなくても分かるって! 素手で戦闘ヘリ破壊しちゃうバケモノに人間が勝てるわけないでしょっ!? ノーモア、暴力!」
ホリッカーだけではない。
「俺も……」
「ぼ、ぼ、僕は元々、戦いたくないし……」
ブラック・ブライト、バブルマンのふたりも何の躊躇いもなく投降のポーズを取る。
「……いや、俺としてはそうしてくれると面倒でなくて助かるけど……むしろいいの? そんな簡単に任務を諦めてさ」
「そりゃ命あっての物種だもの。当然よ。でしょっ?」
両手を広げて首を傾げるホリッカーに、後ろの2人も追随する。
「まあ、そうだな。今回はプチ旅行ってことにしとこう。幸い監視役の兵たちも軒並み気絶していることだし、日本のディスティニーランドにでも行こうぜ」
「ディ、ディ、ディスティニーランドはここからだと遠いよ……。ぼ、ぼ、僕は富士急ローランドってとこに行ってみたい」
「あ、アタシもそれ賛成! 日本一怖いって評判の戦慄ダンジョンとかいうアトラクション、興味あったのよね〜」
3人はケロッとした様子で俺の前から立ち去ろうとする……俺はコイツら逃していいのかな? まあいいのか?
「あ、でもとりあえず武装解除だけしてってよ。富士急ローランドで暴れられても困るし」
「暴れないわよ! そんなことしたらテーマパークが台無しじゃない!」
「いいから。どうせアトラクション乗る時に手荷物全部預けるんだから気にしなくていいだろ」
「えぇー……」
俺が言うと、3人は渋々自分の武器を地面に置いていく。ホリッカーはナイフと銃、バブルマンは水鉄砲? らしきもの。そしてブラック・ブライトはジャララララッ! と。
「……しょうがないだろ、俺は暗器使いなんだからよぉ」
体のあちこちから、大小合わせて優に30は超える刃物類を地面へと落とした。
「それじゃ、アタシたちもう行くから」
「あ、うん」
「何で狙われてるのか知んないけど、まあボーイもがんばんな」
ホリッカーはケラケラ笑いながら、他の2人を引き連れて駅へと歩いて行った。
「……はぁ、余計な時間食ったな」
3人の後ろ姿が駅へと消えて、ため息を吐く。引き際があまりにも潔すぎて思わず見送ってしまった。
「小室山に向かわないと……あ、でもその前に……」
ブラック・ブライトが置いていった刃物類を手に取る。
……使えそうだな。これまでは十徳ナイフで魔力剣を作っていたけど……しっかりとした刃物の方がより強力な剣ができる。
俺が武器を拾っていると、唐突に、タクシー乗り場へと一台の車が入ってくる。それが俺の前で停まる。
「派手な音に戻ってきてみれば……やはりお前か、少年」
運転席のウィンドウを開けて顔を出したのは欧風の、アザの残る顔をした──
「ジャーマノイドっ!? なんでここにっ!?」
「決まってる。
ジャーマノイドはピラッと、1枚の紙を俺に見せてくる。そこには何かしらの住所と、道順などが細かに記されているが、それよりも気になるのは最後の一文……『狙うなら私じゃなくてココにして』って──
「これ、
「ああ。今朝俺が目覚めたら、手に握らされていた。お前は知らなかったのか?」
「今朝って……あ」
そういえば今日の早朝、ホテルを発つ際にジャーマノイドの部屋を覗いたとき、
『……この人へのちょっとした
そう言って、ジャーマノイドへと何かを置いて行っていた。
「……置いて行ったのは
「どういう心境の変化かは知らんがな。石神
「抹殺できない? なんで?」
「……少年、お前がそれを防ぐからに決まってるだろう」
「あ、そういうことか」
ジャーマノイドは大きくひとつため息を吐くと、車の中を何やらいじって──後部座席のドアを開けた。
「乗れ、少年。お前の用件も分かっているつもりだ。行くぞ、
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