第28話 ファン
「もう! 丸山くんったら全然電話が繋がらなくって、今朝ようやく繋がったと思ったら、突然切っちゃうんだから心配しましたよぉ~?」
「ツバメ、先生……!?」
ありえない、と。息を飲んで、しかし──
……そうだ、ここに集まっているのは超能力者たち。ならば、俺の深層心理や記憶から再現させた人物の幻覚を見せる能力があってもおかしくはない!
──【
俺は魔法でツバメ先生の居所を探る。そう、軽トラでカーチェイスを繰り広げていた時に電話がかかってきていたじゃないか! ツバメ先生は学校から電話をかけて来ていたはず……であれば、こんなところに居るはずがない。
なら、考えられるのはそれが誰かの超能力で作られた幻覚だということ!
「……!」
「どうしたんです、丸山くん?」
「……っ、なんでだよ……」
目の前のツバメは本物だった。俺の目の前に立っているのは浜百合ツバメ、正真正銘のその人だ。
「丸山くん、大丈夫ですか? なんだか顔がとても青いですよ……?」
「……なんでだよ……っ!」
異世界から帰還した俺を、唯一腫れ物扱いしなかった。俺が1人でいると声をかけてくれ、温かな笑顔を向けてくれた。そんな、そんな人が。
……なんでこんな時に、こんな場所で、こんなにも……俺の敵であるかのように登場するんだよッ!!!
「丸山くん?」
「……っ!」
ツバメ先生の真後ろに、超能力者のひとりが発した豪火が迫った。
「──先生ッ!!!」
とっさだった。俺は足を踏み出していた。
俺の体は考える前に動いていた。そしてその豪火の前に躍り出て、背中にツバメ先生を守るようにしていた。
「相変わらず優しいですね、丸山くんは。情が通った相手には、明らかに敵意が鈍ってしまう」
豪火の中から、ひとりの男が躍り出てきた。その体は不思議と燃えておらず、その手が俺の腕を鷲掴みにした。
──その瞬間、俺の魔力が喪失した。
「……!?」
「みんな、サイコキネシス」
「「「はっ」」」
超能力者たちの手が俺に向けられ──再び俺の体に強力な圧力がかかる。
「ぐ……っ!?」
「さすがに魔力が使えないのではこの拘束を解くのは難しいようですね。丸山くん?」
「なんで、魔力が……!?」
「いま丸山くんの腕を掴んでるその子の能力は【異能無効化】。あらゆる異能攻撃を無効化し、また、その手で触れた物・者の異能を無効化する能力を持つからです」
「……なんでっ!」
「なんで? そういう超能力だからですよ?」
「違う! 超能力者のことじゃない……!」
今俺が問いたいことはただひとつ、俺の高校の担任であるツバメ先生が、どうして
「あはは、そうですよねぇ? 当然、気になりますよね……一介の高校教師なだけの私が、
「どういう、ことだよ……!」
「私は
魔力を封じられたまま、サイコキネシスの圧力に潰されながらも問う俺に、ツバメ先生は変わらぬおっとりした笑顔でハッキリと言う。
「だからですね、日本の秘密組織の所長が、あえて一介の高校教師をやっていた、というのが正しいわけです」
「は……どうして、なんでだよ?」
「ふふふ、決まってます。それはね、丸山くん。1カ月前に異世界から君が帰ってきてくれたからですよ」
「……!?」
あぜんとする。
……ツバメ先生が、なんで俺が異世界帰りだって知ってるんだ……?
「思いもよらなかった、って顔をしてますね。日本に帰って来てから誰にも喋っていないはずなのに、って」
「……! そうだ、俺は異世界のことを誰にも話してないっ! 数日前に
「でも、私は知ってましたから。誰よりも先に。それこそ、昨年の4月初旬、異世界に丸山くんが転移したその日から」
「は……!?」
「ふふふっ、すっごく驚いてますね」
ツバメは驚く俺の様子を見て、とても楽しげに笑った。
「丸山くん、君の側に行きたかったんですよ、私は。だって、私は君が異世界で活躍する姿をずぅ~っとワクワクしながら見守っていた、君の第一のファンなのですから」
「はぁっ!? ファン!?」
「そう。ファンなのですよ。丸山くんは【私の孤独な夢物語】にただひとり、突如として現れてくれたヒーローなのですから……」
……分からない。ツバメ先生の言っていることの意味がまるで分からない。
得体の知れないツバメ先生の言葉に、背筋へとゾクゾクと怖気が奔る。
「さっき豪火から私を守ってくれた時は特に感動しました……あれはまるで、異世界の魔王戦の最中に起こった1シーンのよう。異世界で丸山くんとずっと行動を共にしていた仲間であり、しかしながら魔王の娘でもあった女魔法使い……その彼女の裏切りを知ってなお、その身を命がけで庇った丸山くんの再現のようではないですか!」
「……ッ!?」
なぜそれをツバメ先生が知っているのか……それは確かに、間違いなく異世界で起こった話だ。
──魔王討伐のための旅路で出会い、仲間となった女魔法使い【シルヴィエ】。しかし彼女は魔王の娘であり、俺を暗殺するために仲間のフリをしていたのだ。
だけど、彼女は俺の不意を打つ直前で攻撃をためらった。魔王の怒りを買ったシルヴィエは殺されそうになって……でも、俺は彼女を助けた。体が勝手に動いてしまったのだ。結果的に、恐らく彼女に不意打ちされるよりも手ひどいダメージを負ってしまったと思う。
……でも、まるで後悔はなかった。シルヴィエが俺の仲間になって、共に笑い合って、励まし合って……その全てが嘘だったとしても、それでも異世界でただひとり仲間として共に旅路を歩んでくれた彼女を……俺は最後まで憎むことができなかったのだ。
魔王との戦いの後、シルヴィエのその後の行方は分からず……俺は異世界の人々から魔王に加担する者を庇い、あまつさえ逃がした反逆者として──いや、よそう。そんなことを思い返してる場合じゃない。
「なあ、ツバメ先生……いや、浜百合ツバメ! どうしてそこまで俺のことを知っている? あんたはいったい何者なんだっ!?」
「超能力者ですよ、私も。でもこの世界では他に居ない、異質で……孤独な異能を持った、ね」
「孤独な……異能……?」
「ええ。でも、私は救われました。丸山くん、君のファンとして、異世界の君の活躍を見ていると……ただそれだけで私の孤独は埋められたのです」
ツバメは身動きの取れない俺の頬を、微笑みながら、慈しむように撫でた。
「だからね、丸山くんの学校に緊急で赴任することにして、君のクラスの担任になって、君のことを間近で観察していたのですよ……
「
「あはは、考えてもみてください。【永久機関】の可能性を秘める重要人物の脱走を私たちが許すわけがないじゃないですか。わざと、ですよ」
ツバメは
「くっ……
「……
「エサ……だとっ!?」
「はい。
ニッコリと、ツバメは言う。
「
「……わざわざ、なんでそんなことを……」
「言ったでしょう? ファンだって。異世界の勇者であった丸山くんの戦いっぷりをこの現代でも拝みたかった……理由なんてそれだけですよ」
ツバメはそう言って俺に背を向けると、
「浜百合ツバメッ! どこへ行くつもりだ……!」
「ふふふ、もう『ツバメ先生』とは呼んでくれないのですね、残念です」
ツバメはわざとらしく肩を竦めると、取り押さえられている
「私はこれから
そう言い残し、誰の超能力なのか、
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