《石神若の記録》4/29(金)夜
……ようやく落ち着ける場所まで来れたから、記録を再開するわ。
4月29日、祝日の金曜日……時刻は23時14分。
……。
前回このボイスレコーダーに声を吹き込んだのは……1週間前か。だいぶ、間隔が空いちゃったわね。
追手が迫ってる感覚があったから、ずっと焦っていて……それで記録を残す余裕も失っていたみたい。
本来ならそのまま、昨日のうちに捕まっていたはずよ。
……。
それだけ昨日は……限界寸前だった。
張り詰めていた糸がプツンと切れてしまったかのように、路地から一歩も動けなくなって、気づいたら涙があふれ出して止まらなかったんだもの。
参ったわ。本当に。
でも、おかしなことがあったの。
路地裏で泣いていたら【ナンパ】されたのよ。
ビックリしたわ。
『どうしましたか? 俺でよければ話聞きましょうか?』
だって。
……ふふ。
ずっと研究所の中で暮らしていたし、
ホントにそうやって声かけるんだ、って謎の感動しちゃったわ。
まあでも、ナンパはナンパよ。
されたってことはつまり、私にスキが見えたってことでしょ?
ああ、弱ってるって思われてる、って。
悔しいやら恥ずかしいやら。何なのかしらね、あの気持ち。
……ムカついた。
適当にあしらって、もし強引な手段に出て来られるようだったら改造スタンガンで痺れさせてやろう、なんて思ってたけど。
ずいぶんと低姿勢なナンパだった。
私、けっこう辛辣に対応したはずだけれど。
『待って、もう少し話を聞いてください!』
だって。
……フフ。
必死でちょっとおもしろかった。
でもそんなことしてたら追手に見つかって、私、とっさに逃げようとしたけど……ダメね。
腕を掴まれたらパニックになって、頭真っ白で、自分がスタンガン持ってるってことも忘れて……
無力だったわ、本当に。
そこを助けてくれたのは、ナンパで声をかけてくれた男の子。
手当てもしてくれた。
優しかった。
すごく久しぶりに……いえ、もしかしたら生まれて初めて、純粋な優しさに触れたのかもしれない。
だから私、彼を巻き込みたくなかった。
カッコつけて、最後までひとりで足掻こうって思って。
……。
……。
……結局巻き込んでしまったわ、今日。
異世界帰りの彼にまた助けられて。
異世界……そういえば、
どちらにせよ、まさか、実在していたなんてね。
……。
……。
……話が脱線したわ。
彼、丸山コウくん。
今日から私は彼と行動を共にすることになったわ。
それと……。
……。
こ、恋人関係になったの。
だ、だって、彼、昨日からずっと私のこと好き好き言うのよ。
そんなこと言われるの自体、初めてなのよこっちは。
嫌でも意識しちゃうじゃない。
助けてくれたお礼も満足にできていなかったし、彼が……コウくんが喜んでくれるならって思って……。
……。
……。
……ンンッ!(咳払い)
まさか私が、ね。
しかもこんな追われる状況下でよ。
思いもよらない、ってこういう時に使う言葉よね。
……。
でも、不思議ね。
相変わらず全世界が敵、って状況はひとつも変わらないのに。
すごく、心が軽くなったわ。
嬉しかった。
……。
……。
……今日はもう寝るわ。
明日は元々の目的地、東北に向かうわ。
コウくんの力も頼れるから、これからは電車も使って、隠密よりも迅速な行動を心がけることにする。
私を狙う、世界すべての鼻を明かしてやるんだから。
……。
4月29日金曜日、23時19分。石神
……余裕があったら、また明日。
おやすみ。
==================
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また、本作ドラゴンノベルズコンテスト参加中です。
「おもしろかった!」
「これから楽しみ!」
などなど思っていただけましたら、ぜひフォローや☆評価をお願いいたします! 執筆の励みになります。
それではっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます