第12話 新たな旅たちと朝ごはん
『私には、目的地があるの』
シャーマン連中との戦闘のほとぼりを冷ますためにマンガ喫茶でひと晩を明かしていた際、
……どうやら
俺はもちろん、
『俺もついていくよ。
そう話した。
──そして翌朝。4/30(土)、午前6時半。
マンガ喫茶が出た俺たちは足早に駅への道を歩いていた。
……これからは隠密ではなく迅速、
『もう、私がこの付近に居るということは知れ渡っているに違いないわ。だったら目撃されるリスクを取ってでも、最速で目的を果たすことを優先させるべきよ』
だそうだ。
「ふわぁ……」
「ま──コウくん、どうしたの? 寝不足?」
「うん……ちょっとね」
ぶっちゃけ、あまり寝ていない。マンガ喫茶という慣れない環境で夜を明かしたのは初めてで、ぜんぜん寝付けなかったのだ(もちろん、俺と
駅前にまでやってくる。
「……ここから電車移動が主になるわ。最初の快速に乗ったら1時間乗りっぱなしになるから……コンビニかどこかで朝ごはんを買ってしまいましょう」
「おー! 朝ごはん!」
……ありがたい申し出だ。マンガ喫茶からは朝起きてすぐに出てきたので腹には何も入れられていない。しかも俺ときたら、深夜ほとんど目を覚まして過ごしていたのでかなりお腹が空いていた。
「コウくんは何が食べたい? なんでもいいわ。私が持つわよ」
「いやいや、俺も財布あるから。自分で払うって」
「いいから。まとめて買ったほうが時間の短縮になるでしょ?」
「う~、じゃあ、お言葉に甘えて……」
「年長者として当然のことよ。で、どうするの?」
「えーっと……」
駅の付近にあるのはコンビニ、牛丼屋、宝くじ売り場(これは関係ない)、それに加えて──
「あ、【ムック】もあるじゃん」
ムック、それはつまりみんな大好きムクドナルド。お手頃価格でガツンと胃袋に溜まるジャンクなフードを提供してくれる素晴らしきチェーン店だ。
……今の時間帯は……朝ムックか。ベーコンエッグマフィンセットとかなら、テイクアウトで、電車の待ち時間にホームでササッと食べられるしコーヒーも飲める……!
ゴクリ。
ムックのことを考えると口に勝手にヨダレが溜まり始めるこの現象に名前はあるのだろうか?
……いやまあそれはともかくとして。うん、いいじゃないか? 朝ムック。
「
「朝ムック……まさか、ムクドナルド……っ?」
……あれ、マズったか? もしかして、女子は朝ムックとかしない? 確かに、ダイエット嗜好からは対角に位置する存在だし……。
「あの、もし朝ムック嫌だったら他のでも──」
「──朝ムック……! 私、行ったことないの……っ!」
……あ、これ。ぜんぜん大丈夫なやつだな? いかにも興味津々って様子だし。
「というか、ムクドナルド自体行ったことないのよね。研究所付近の街には出店してなかったから」
「あ、そうなんだ……」
「……どうする、行っちゃうの? 朝ムックに!」
「……じゃあ、朝ムックに決定で」
「わかったわ! 行きましょう!」
「テイクアウトにする?」
「……快速まで時間あるし、せっかくだし、中でいただきましょう!」
めちゃくちゃ足取り軽やかに、
「あ、でも私、注文の仕方とかメニューとか知らないのよね……コウくんは分かるんでしょ?」
「まあ、いちおう。月1回は行ってたから」
「や、やるわね……! じゃあ、コウくんにぜんぶ任せるからね、私」
いや、そんなに息を飲んで驚かれることでもないんだけど……大げさな。
俺たちはふたり、ムックへと入る。
「じゃあ俺注文してくるけど、
「しょ、初心者でも大丈夫なのは何かしら……」
「たいてい何でもいけると思うけど……」
「マフィンは分かるわ。マフィンだもの。でも、【ムックグリドル】って何……? ラテン語、ギリシア語派生の言語のどこでも聞いたこと無いわそんな単語」
「確か……メープルシロップの染みたパンケーキ、だったはずだよ」
「パ、パンケーキっ!? ウソよ、からかわないでっ。甘々のパンケーキに塩辛いソーセージやらベーコンが挟まっているとでも言うのっ!?」
「いや、その通りだよ」
「そ、そんな……甘いパンケーキふたつでしょっぱいものを挟むなんて……もうそれだけで『甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱい』の永久機関が完成してるじゃないの……!」
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