異世界帰り元勇者の俺ですが、初恋のクール系美少女が全世界の最強異能力者たちに命を狙われてるようなので、そいつら全員を敵に回してでも初恋を成就させようと思う

浅見朝志

第1話 クールな美少女との出会い

「ど……どうしたんです? 俺でよければ話、聞きましょうか?」


それはゴールデンウイーク前日の夜、学校帰りの出来事。俺は、繁華街の路地裏でひとり静かに涙を流す少女にそう言った。




──生まれて初めての【ナンパ】だった。




自分でもビックリだ。俺は話でよく聞くようなチャラいナンパ男は嫌いなはずだった。それなのに、まさか自分ですることになるなんて……別に、ヤケになっての行動じゃない。


俺が去年の高校入学直後から【とある事情で1年間失踪】してしまい、そのせいで復学してからも腫れ物扱いを受け彼女はおろか友達すらいないからといって、学校外でナンパして青春を謳歌おうかしてやろう! だなんて迷惑なことは考えていない。誓って本当だ。


「……っ!」


その美少女はクールな印象を与えるツリ目を大きく開き、怯えた猫のようにビクリと勢いよくこちらを振り向いた。


……驚かせてしまったようだ。そりゃそうだよな? こんな夜に突然男の声がしたら怖いよ。申し訳ない。


「急に話しかけて、ごめん。ただ……そこの道を通りがかったら、たまたま泣いてるのが見えて……」


「……別に、泣いてたわけじゃないわ」


美少女は目尻に残っていた涙をぐしぐしと拭くと、毅然きぜんとした表情を向けてきた。


「大丈夫よ。なんでもないの。こっちこそごめんなさい、変に驚いて。それじゃ」


美少女はそう言うと俺から顔を背け、路地の奥へと歩き始めた。それは、『これで話は終わり』という明確な意思表示。そんなことくらい、当然俺も分かってはいた──が。


「ちょ……ちょっと待って!」


俺は、美少女を呼び止めていた。


「あ、あの、もしかして何か困ってるんじゃ?」


「……いえ、別に」


「俺……丸山コウ。17歳の高校生です。ぜんぜん怪しい者とかじゃないっす……なので、俺でよければ話を聞けますよ?」


「……ハァ」


美少女は面倒くさそうにため息を吐くと、俺とは目も合わせようとしない。


「私はひとりで居たいの。構わないで」


「でも……夜の繫華街に女の子ひとりは危険だし」


「そうね、こんな風にナンパもされちゃうものね。……今どきまさか本当に【どしたん話聞こうか?】構文で声をかけられるとは思ってなかったけど」


「うっ……」


美少女のクールな目が固い意志をもってして俺を貫いてくる。軽蔑さえ混じっているようで、胃がキュッと締め付けられるようだ。


「とにかく、私はあなたとこれ以上話す気はないわ。ナンパなら他を当たってくれないかしら」


「あ……お願いします! もう少しだけ、俺に時間を……!」


「……しつこいわね。そこまで私にこだわる理由なんてないでしょ。時間の無駄よ」


「……っ」


こだわる理由が無い? いや……俺が人生初のナンパに踏み切った理由なら確かにある。


「俺は君に……生まれて初めての一目惚れをしたんです!」


そう──路地裏の彼女をひと目見たその時から、俺の心は奪われてしまっていた。運命を感じた。クサイ表現だけど、それ以外に言い表しようもない。


……これまで、17歳という年齢にしては【ものすごく濃い人生経験】をしてきた自負はある。でも、そんなこれまでの人生の中でも、今この瞬間ほどの衝撃はなかった。


「だから……これは決してただのナンパなわけじゃないんですっ!」


「……いや、『一目惚れだからただのナンパじゃない』っておかしいわよ。だって普通、一目惚れしたからナンパするものでしょ?」


「……いや、それは、えーと……」


「つまりナンパは、一目惚れという要因ありきで起こるもの。よってナンパに『ただ』も『ただじゃない』も無いわ。ナンパはどこまで突き詰めてもナンパ。ただの迷惑行為。はい、Q.E.D.証明終わり


「……」


……それはまあ、確かに一理ある。


美少女の冷静なひと言に思わず納得してしまった。男の方はそりゃ一目惚れを理由にして話しかけてくるよな、普通?


「じゃあ、私もう本当に行くから」


「ちょ……待ってゴメン待ってください! 俺が言いたいのはつまり、俺のこれは、決して軽薄な理由からのナンパではないということで──」




「オーウ、ユーはフラれマシター。もう諦めなサーイ」




なんとか美少女の気を引こうと言葉を連ねている俺の後ろから、そんなカタコトの日本語が聞こえた──かと思いきや、


「──ッ!?」


突然、俺の側頭部に大きな衝撃が走った。俺の体は、ものすごい勢いで地面に転がってしまう。転がる直前に眼前にシューズが映ったので、どうやら俺は思い切り回し蹴りを喰らわされたらしいことが分かった。


「ボーイに用はないデース……デハ、ガール? 次はワタシとお話しまショーウ」


「……! あなた、誰ッ!?」


「アハーハ……捜しマシタよガール? お前をさっさと連れていかないとワタシが上にられちまいマース」


「まさか、もうこんなところまでっ……!」


「ノンノン、逃げようとしたって、そうはいきまセーン」


「いやっ……放して……!」


走り出そうとした美少女が、2m近くはあろうかというガタイの良い外国人の男に手を掴まれてしまっている。必死で振りほどこうとしているようだったが……男の力は強いらしい。ビクともしていない様子だ。


「オーウ、言うこと聞かない女、メンドーくさいデース。もう殴って黙らせマース」


「……ッ!」




「──それはいかんな、いかん」




パシン、と。


外国人の放ったその拳を、美少女に激突寸前で──俺は手のひらで受け止める。


「力にモノを言わせようなんて、最低なナンパの仕方だぞ……? いや、ナンパ自体褒められたモノじゃないってことは分かってるけどさ」


「ンンー? ユー、いつの間に立ち上がってるデース……? ワタシのキックは確かにクリーンヒットしたはずデース……」


「俺に対しては蹴ろうが殴ろうがなんだって別にいい。どうせぜんぜん効かないし」


「あ、あり得ないデース! ワタシ、元プロキックボクサーなんですヨッ!?」


「誰も訊いてないっつーの」


「ヘブゥッ!?」


俺が緩やかに放ったボディブローがその外国人の男を一撃で地面に沈ませた……ふむ、どうやら内臓などは破裂させずに済んだっぽい。


「……よし、力加減は合ってたみたいだ」


現代こっちに戻ってきて初めての人体への殴打だったから、だいぶ手加減はした。それにしても……元プロキックボクサー? それを言うなら俺は【元勇者】だ。


──去年の高校入学直後に突如として【異世界に転移】し、勇者としてまつり上げられ、それから約1年間、そこで死ぬほどフィジカルと魔法を鍛え上げて、数多の強敵と命がけの戦いをし、そうして魔王を倒して現代日本へと帰還してきた身の上なんですよね、俺。




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