夢幻地獄
橋立
第1話
落ちた。
多分、きっと、落ちている。
何故なら、浮遊感、風切り音を感じるから。
・・・あっ。
『グシャリ』
潰れて、弾ける音が聞こえた。
「はっ!・・・何だぁ、夢か」
ベットから、起き上がり、先ほどまで見ていた悪夢のことを考える。
・・・何故か、視点が暗転した。
視界が晴れた。
僕の身体には、出刃包丁が突き刺さっていた。
「あっ、ああぁああ!痛い!痛い!痛い!」
悲痛な声を漏らす。
僕の視界に、一つの小ぶりの、革靴が見えた。
『グサリ』
僕の腹に、もう一本、出刃包丁が刺さった。
「グアアあぁっ!」
もう一度叫び、腰を抜かした。
目の前には、少女が。
見たことのない少女が、嘲るように、満面の笑みを浮かべ、手に持っている、包丁を振りかぶった。
「やっ、やめ!」
僕の声が最後まで口から出ることはなかった。
視点が暗転した。
今回は、目覚めた。
目覚めた。そのはずなのに。そのはずなのに。
・・・僕のベッドは、鮮血で彩られていた。
そして、また僕の視点は、暗転した。
視界が揺れる。
「うわぁぁあぁ!」
驚きながら、目を見開く。
辺りは、ガラス張りで出来ている。そういうビルのように。
・・・あっ!
『パリパリパリ』
無情にも、先ほどから続いていた揺れに耐えかねたガラスが音を上げた。
辺りのガラスは、
『ガシャン』
と音を立ていっきにわれた。
「えっ!」
感想を漏らし、これから訪れるであろう激痛に耐えるため、目を固くつむる。
・・・いつまで経っても、激痛は訪れない。
不思議に思い、目を見開く。
辺りには、先ほど割れ、重力に引かれ、落下を始めているはずのものが浮かんでいた。
「あっ!」
鋭い、ナイフのようなガラスは、切っ先を全て僕の方に向け、猛進した。
・・・そして、僕は、頭の無い自分の体を見た。
再度、目が覚めた。
先ほどまでと同じように、ベッドの上で。
だが、先ほどと違い、ベッドのシーツは、鮮血で完全に染まっていた。
ベッドが宙に浮いた。
僕は、
『ゴロゴロ』
転がり落ちた。
ベッドは、
『ドン』
大きな、耳が痛い音を出した。
僕は、逃げ出した。
ただ、真っ白な空間を走った。
走ったのだが、辺りの光景は一切変わらない。
後ろを振り返ってみる。
先ほどまで見えていた景色と何一つ変わっていない。
ベッドは、赤く染まったままだ。
怖い、逃げよう。
走った。さらに走った。
だが、進まなかった。
再度、振り返る。
ベッドの上からは、何かが生えてきた。
赤い、赤い、赤い・・・白い、白い。
骨の露出した。大きな、大きな。
人間?犬?猫?鹿?馬?・・・・分からない。
逃げた。怖かったから。
背後からは、
『ヒタヒタヒタ』
ゆっくりと歩く音が迫ってくる。
『ピトピトピト』
血が滴り落ちる音が迫ってくる。
目の前に、尖った白い骨が飛び出した。
鮮血が。真っ赤な、真っ赤な鮮血が。
『ブシャー』
音を立て、噴き出した。
意識が遠のいて行く。
白い空間は、真っ赤な。真っ赤な。真っ赤な。真っ赤な。真っ赤な鮮血色に染まっていった。
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