胸糞冒険者たちが集まる街

ちびまるフォイ

生きたおもちゃ

「私も異世界に来たんだ……!」


神との対話を終えてついにやってきた異世界。

どこまでも広がる手つかずの自然。

私がなんでもできそうな可能性の大地に見えた。


期待に胸をふくらませていると、草かげからコボルトが飛び出してきた。


「キシャーーッ!」


「わっ!?」


神からチートを受け取ったものの使い方はまだわかっていない。

まごついているとコボルトの鋭い牙が迫ってくる。


「凍りつけ! アイシクル=コフィン!!」


偶然ちかくにいた冒険者が氷魔法を放った。

コボルトはすんでのところで氷づけで止まる。


「あんた、大丈夫?」


「あ……ありがとうございます、助かりました」


「ここじゃ見ない顔だね。この辺はコボルトの巣が近いから気をつけないと」


「ええ、実は転生してきたばかりで」


「っと、ちょっと待って。氷が溶けちまう」


「……?」


すると冒険者は氷漬けになったコボルトを蹴飛ばした。

氷で弾力性が失われた体は粉々に砕け散る。


「ぎゃはははは! 見ろ! こなごなだ!!」


「な、なにを……」


「あんたも見ただろう。凍らせてから衝撃を与えると

 キレイに砕け散るんだ。俺はこれが好きでね」


「わざわざそんなことする必要あるの…!?

 だってもうコボルトは氷漬けになった段階で死んじゃってるじゃない!」


「はは。あんた面白いこというね。

 死んでるからこそどう扱ったっていいじゃないか」


「そんな……」


「あんたもこっぱみじんになるとこ見ただろう?

 いやあ、ほんとスカッとするね。最高さ」


足元に転がるコボルトの首を見て、まるで同意できなかった。


「さあ、ついて来なよ。街まで案内する」


冒険者に連れられ街まで向かうことになった。

その道中でも他の冒険者とはすれちがうことが多かった。


「見ろ! ゴブリンの首を今日は10個とったぜ!」


「オークの腹を裂いて、オークマトリョーシカを作ったんだ!」


「リザードマンの皮をすべて剥いでやった! ぎゃははは!」


冒険者たちの所業に目を向けていられなかった。

街についたときには最初の頃のウキウキした気持ちはげんなりと消沈しきっていた。


「ここが街だ。あんたも冒険者になるんならまずギルドに行きな」


「は、はい……」


自分が冒険者になるとかはもうどうでもよくなっていた。

道中であった残虐な仕打ちを告発したかった。


「冒険者ギルドへようこそ! 登録ですか? 受注ですか?」


「そ、それより聞いてください!

 冒険者がひどいことをしてるんです!」


私はこれまで見てきたひどすぎる冒険者の所業を余すところなく伝えた。

ギルドマスターはひとしきり聞いたうえで、きまずそうに答えた。


「あーー……もしかして、あなたは外の国の人です?」


「ええ、今日この街に来ました。それがなにか?」


「今の話は別にめずらしいことじゃありません。

 みんな冒険に出れば同じようなことをしてます」


「同じようにって……モンスターを残虐に殺すことを!?」


「だってモンスターですよ? 危ないじゃないですか」


「普通に倒せばいいじゃない!」


「まあそうなんですが……。

 昔、この街に転生者が来てさまざまな技術を伝えたんですよ」


「それが今の話となんの関係が……?」


「魔法や武器の技術があがってしまうと、

 モンスターはもはや脅威じゃなくなるんです」


「はあ」


「いつしか、モンスターとの戦いは冒険ではなくなって

 ただのスポーツハンティングや娯楽になっているんです」


街に来るまでに行われた行為が脳裏によぎる。

どの冒険者もまるで遊んでいるようにモンスターを血祭りにあげていた。


それがギルドマスターの言葉を真実たらしめるなによりの証拠だった。


「そんなこと……ギルドは黙ってるの!?」


「ギルドとしては依頼されたモンスターを倒してもらえれば

 たとえ、その倒し方がどうあれ問題じゃないわけです」


「うそ……」


「それで? 冒険者に登録されますか?

 今なら待機している他の冒険者ともパーティ組めますよ?」


「いらないです!!」


とても冒険者になる気はなかった。

遊び半分で命を奪い続ける狂気性に染まりたくなかった。


ギルドを出ると、ちょうど多くの冒険者が街へ戻ってきていた。


「あれは……?」


冒険者の隊列の最後尾には、ゴブリンの子どもたちが拘束されたまま連れ帰られている。

どの子も辛そうに涙を流している。

抵抗した子もいたのだろう。痛々しい傷も見える。


「ちょっと! なにしてるの!?」


たまらず冒険者のリーダーに抗議した。


「なにって……なんのことだ?」


「なんでゴブリンの子供を誘拐して街に連れてきたのかって聞いてるのよ!」


「ああ、あんた知らないのか。明日はゴブリン祭りの日だからな」


「ゴブリン祭り……?」


「ゴブリンの子供を魔法結界の中に放って、

 最後の1匹になるまで殺し合わせるのさ。

 

 で、最後に残った一匹は街のみんなで素手で殴り殺す。

 最初にゴブリンの目をくり抜いた人が優勝だ。

 

 毎年この時期になるとみんなこれが楽しみでーー」


「なんでそんなひどいことするの!?」


「あんたゴブリンでもあるまいし、なに怒ってるんだ。

 よそもののくせにみんなの楽しみにケチつけるなよ」


「命をそんなふうに扱っていいわけないでしょ!!」


「どう殺したところで、結局最後は死ぬんだ。

 ゴールが同じなのになんでそんなに手段にこだわる?」


この冒険者たちには何をいってもダメだと思ってしまった。


私がなにを言っても、私をおかしな宗教でも見るような目で返してくる。

ここにではモンスターは自分たちの残虐性のはけぐちでしかない。


連れてこられた子供ゴブリンたちは、

明日の祭りのため結界で覆われた納屋に放り込まれた。


街の人達は前夜祭だと大きな炎を焚き、

どれだけモンスターを殺してきたかの武勇伝を語らっては酒を飲み交わしていた。


街の人達が寝静まった夜。


「……よし、誰もいない」


私ひとりだけ起き、子供ゴブリンが囚われている納屋に向かった。


「作られし結界を解除せよ! アンクローズ!」


結界を解くと、子供ゴブリンたちも目を覚まし始めた。

すぐにゴブリン語を頭に入れて、子どもたちに叫ぶ。


「みんな起きて! ここに居たら明日みんな殺されちゃう!」


状況を理解できてないのか、子供ゴブリンたちは誰も動かない。

まさか人間が助けにくるなんて思ってもないだろう。


「大丈夫、私はあなたたちにひどいことなんてしない。

 街のバリアも私が解除したから、今なら外に出られるから!」


その言葉に子供ゴブリンたちも立ち上がり始める。

そして……。


「パパ! ママ!」


子供ゴブリンは嬉しそうに言った。

振り返ったときにはもう遅く、私の頭をゴブリンの棍棒が強打していた。


「よくもオラの子供たちを誘拐しただな……!!

 人間め……許さないど!! ただじゃ殺さないど!!」



結界が解かれたことで街に入ってこれたゴブリンたちは、

代わる代わる私の体に棍棒を振り下ろし続けた。


体も顔も原形がわからなくなるころには、もう私の意識はなかった。



最後は子供たちがただ無事で逃げてくれたことを祈った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胸糞冒険者たちが集まる街 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る