マスターと「第2話」

 たぶん、いや、ぜったい。届かない、想い。

 あなたには気づかれたくない、ドキドキハート。

 いつしか知らぬ知らぬうちに、私の心はあなたに真っ直ぐに恋してた。


 それは、馬鹿げた想い。

 儚い気持ち。


 気づけば視界の中に、視線の先にはあなたがいた。

 目が追うあなたは、優雅な王子様みたいだ。


 恋が全身を支配する私、思考回路はロマンチックな詩人に変わる。


 私は告白出来ない意気地なし。近くて遠いあなた。


 私の好きな相手は、喫茶店のイケメンマスターだ。


 告白出来ない意気地なし。近くて遠いあなた。


 彼には気持ちを届けたくないのかも。

 知られてしまっては困る。

 だって、そんなのは気まずい✕100だ。


 居心地の良い安らぐ癒やしの場所が、苦痛に変わるだなんて耐えられない。


 失いたくない、極上の安らぎの時間。


 面倒な憧れの気持ちを知られたりしたら、もうこの喫茶店に来られなくなってしまう。


 見ているだけで。

 私はただ、眺めているだけで構わない。


 溢れてくる。

 気持ちが零れそうになる。


 やっぱり、欲が出てきちゃうかもだ。

 ほんとうは触れてもらいたい。

 あなたに触れられたら、私は倒れてしまうかも。


 心を通わせ合えたら、どんなにいいだろうか。


 どうしたって叶わなさそうな恋、発動中――。

 漂う未消化な気持ちの、切なさの片想いの波動がふわふわ。


 ネガティブハート全開に渦巻く、どうしようの連鎖。


 もしかしたら好きになってもらえるかもの妄想に夢を、甘く淡く抱いてる一方通行の想い。


 ――それが、これこそが片想いなんだ。


  身勝手な片想い人の私、ご都合主義の罠。


 喫茶店茶店のマスターとただのお客さんな私。


「お客さま、ご注文はお決まりでしょうか?」


 マスターの落ち着いた甘い声にドキリッとする。


 椅子に座った私のお尻が飛び上がりそうになる。


 営業スマイルだなんて思えないほど、優しい光を浮かべた瞳の微笑み。


 真心を感じる、接客。


 マスターがカウンターの向こう側に立てば、たちまち芳しい珈琲の焙煎の香りが店内にいっそう濃く満ちていく。


 苦手だった珈琲も、お砂糖たっぷりミルクたっぷりにしてだけど、飲めるようになった。


 私の手にしたカップ、ほろ苦い珈琲は、泣けてきそうなほど美味しかった。


 飲み始めはシュガーミルクで甘く甘く、後味は苦く香ばしくて。

 微かに甘酸っぱかった。


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