第3話 アカリの下層ソロ攻略 1


「ふぃ~。・・・・・よし。着いたね!」


僕は目的地に着いたのでほっと胸をなでおろす。



今日は日曜日。

週に一度の撮影の日だ。


「そうだな。」


隣にいる親友が答える。

少し機嫌が悪い。何故かずっと頬をぷくってしている・・・・・可愛いな。


「どうしたんだよアカリ~。具合でも悪いのか?」


僕は彼女の肩を軽く叩きながら言う。


「ん?いっいや!悪くはないぞ。うん。

 ・・・・・でも・・・・・せっかく二人きりなのに【ダンジョン】なんだもん。」


最後の方は小声で聞き取れない。


「いゃ~、今度『深層』に行く前に、ウォーミングアップがしたいって、アカリも含めてみんなが言ってたじゃん。だから僕も一緒に行って動画撮らないとって思ってね!」


「確かに言ったな。・・・・・でも今度は買物とかにも付き合ってもらいたいな。」


「買物?ハハハッ!基本暇だから全然いいよ。僕とアカリの仲じゃん。いつでも声かけてよ。」


「ほっ、本当か?・・・・・そっ、そうだな!ソラと私の仲だもんな!そうだそうだ!うん。今度は私から誘うよ!」


少し顔を赤くしてアカリが嬉しそうに言う。


良かった。機嫌が直ったみたいだ。


僕達は今、中層の最下層。

下層に降りる手前の場所にいた。


僕は彼女を見る。



黒く美しい髪は腰まで伸びていて、瞳は吸い込まれそうな程に黒く澄んだ目をしている。そして顔もとても整っており、まさしく美少女だ。


身を包んでいるのは赤い刺繍が施されている着物。

腰には柄から鞘まで白く長い一本の刀を携えている。昔でいう『侍』の様な出で立ちだ。彼女の綺麗な顔立ちと黒髪、赤の着物のコントラストがとても良く調和している。見惚れてしまい10人が10人、美しい。と思うだろう。


そんな彼女の名前は、星 星莉(ほし あかり)。

超有名学園の三年生で18歳。

大企業、星グループの一人娘。

とても真面目な優しい子だ。


僕の大事な親友の一人で・・・・・日本でまだ5人しかいない、『レベル7』の持ち主でもある。


信じられないだろう?


【星空】には『レベル7』が3人もいる。他の2人も『レベル6』だ。


日本で実績がまだ浅いから、探索者協会の日本ギルドとしては認めてないけど、実力でいったら日本最強のチーム・・・・・いや、世界トップクラスのチームだと僕は思っている。


まぁ『レベル1』の僕がいるせいで全体のチームレベルを下げているんだけどね!


こればっかりはしょうがない。



「さて。んじゃ、そろそろやりますかね!」


そう言いながら僕はリュックサックから撮影機材を取り出す。


「なぁソラ。私は別に何もしなくていいんだよね?」


「うん。いつも通りにしてくれてていいよ。でも、たまに僕が質問する時だけは答えてほしいかな。」


アカリはそれを聞いて頷く。


すでにSNSで告知はバッチリだ。


僕は片手にカメラを持ってスタンバイを終えると、大きく深呼吸してから配信をスタートさせた。






「みなさぁぁぁぁぁぁぁぁん!観てますかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」






☆☆☆






<コメント>


■うぉぉぉぉぉぉぉ!!!きたぁぁぁぁぁぁ!!!


■観てるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!


■観てますぅぅぅぅぅぅぅ!!!


■いつも楽しみに拝見させてもらってます!!!


■待ってました!!!


■めっちゃ盛り上がってるwww


■ソラさん!楽しみに待ってました!!!


■今日はソロですよね!!!誰ですか???




見ると、配信と同時に3万人を超えてる。


いいスタートだ。


「皆さん!今日もご視聴ありがとうございます。・・・・・さぁ、『空ちゃんねる』スタートです!!!」


オープニング曲を絡ませる。


僕は洞窟を撮影しながら声だけでお届けする。


「どうもこんばんは。ソラです!今日は告知した様に、メンバーで初の下層ソロ攻略をお届けしたいと思います!」




<コメント>


■うぉぉぉぉ!!!マジか!!!


■下層ソロってwww


■ソロで攻略なんて出来んの?しかも下層でしょ?


■中層の動画は観た事ありますけど、下層って初じゃない?


■ソロは誰?誰なんですかぁぁぁぁ?


■とりあえず誰なのか、気になるでごわす!!!




どんどんとコメントが流れる。


フフフ。SNSでソロ攻略を告知していたから、皆誰がやるのか気になっているな。


「皆さん。今回誰がソロ攻略をするのか気になってますね。発表しましょう!・・・・・今日ソロで探索する最初のメンバーはやっぱりこの方!!!」


僕はカメラを洞窟からスライドさせて隣にいるアカリに向ける。


「どんなモンスターも全て斬り伏せる・・・・・【星空】最強のアタッカー!

 漆黒の侍『レベル7』・・・・・星 星莉(ほし あかり)さんです!!!」


「よろしくお願いします。」


アカリはカメラに向かって笑顔でお辞儀をした。




<コメント>


■きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


■いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!アカリ様ぁぁぁぁぁ!!!


■アカリちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!


■素敵ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!


■なんて綺麗な!!!


■結婚してぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!


■うぉぉぉぉぉ!やっぱり初回はアカリちゃんか!!!


■下層が観れるって聞いてきました!


■期待して正解でごわす!!!




うわぁ・・・・・めっちゃ盛り上がっとる。

流石アカリだ。

もの凄い勢いでコメントが流れる。


「え~。それではですね。今はどこかと言いますと、中層の最下層です。上層と中層は省かさせて頂きました。そして、この先を下ると下層へと続いています。」


カメラを下層へ続く通路へと向ける。




<コメント>


■うぉぉ・・・・・めっちゃ雰囲気あるな。


■よし!早く行こう!!!


■アカリちゃんの実力がみたい!!!


■下層ってどんな感じなんだろう。早く見たい!!!


■下層!!!初動画でごわす!!!




「では、まずは下層へと行きましょう!」


僕はアカリと一緒に下層へと移動を開始した。






☆☆☆






「着きました。ここが下層です。」


下層へと着くと、カメラをぐるっとまわす。

下層の入口は大きな広場になっていて、その先には無数の洞窟があった。




<コメント>


■ここが下層かぁ。何か先に洞窟がいっぱいあるw


■へぇ~こんなに広いんですね!


■よし!アカリちゃん。行こう行こう!!!


■私は探索者ですが、下層には行った事がないので勉強になります!


■同業者来たwww


■やっぱ同業者も注目してたんだなw




「はい!これからアカリさんが下層攻略をしますが、その前に説明しますね。

上層と中層の動画を観た人や同業の人は知っていると思いますが、上層から中層は基本一本道です。しかし下層は違っていて、目的地までのルートが沢山あります。目の前の無数の洞窟がそうですね。でも、どのルートに行こうが結局最後は目的地に着きます。」




<コメント>


■へぇ~そうなんだ。


■初めて知った。


■じゃあルートによっては難易度が変わるのかな?


■アカリちゃんなら何も問題なし!!!


■説明ありがとうでごわす!!!


■早く行こう!行こう!!!




コメントが変わらずどんどんと流れる。

早く下層攻略が観たいというコメントが多い。

さて、じらすのもそろそろいいか。


「それでは、下層ソロ攻略をスタートします。アカリさんよろしくお願いします!」


「よろしく。」


アカリが歩き出す。その一歩下がって隣で斜め前のアカリを撮影しながら僕は言う。


「あっ。そうそう。モンスターと戦っていない移動中は、途中でコメント拾ってアカリさんに質問しますからね。お楽しみに!」




<コメント>


■マジで???


■よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!


■いいね!!!


■あぁぁぁぁぁ何聞こうかな!!!


■どこの高校に通ってるんですか?


■スリーサイズを教えてください!!!


■好きです!付き合ってください!!!


■ドキドキするでごわす!!!




なんかコメントの動きがどんどん多くなる。見ると視聴がもう7万人までいっている。

やはり下層は初めての動画だから注目度が高いな。

10万人いくんじゃないか?


無数にある洞窟の中から適当に入って進んでいくと、早速先の方から大きな何かが近づいて来た。


「接敵しました。あれは・・・・・。」


前方から二足歩行で向かってくるのは、体全身毛で覆われていて、目は赤く、大型のモンスターだ。




<コメント>


■きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


■なんじゃありゃぁぁぁぁぁ!!!


■熊よりでかくね?!


■おいおいおいおい。大丈夫か?


■たまに下層に挑戦している者ですが、あれはヤバいですね。奴の攻撃はかすっただけで、吹き飛びますよ!仲間が何人死んだか・・・。


■おぉ!!!上位の探索者きたw


■トップクラスも注目してるw


■マジか!!!


■ヤバいんじゃね???


■アカリちゃん。平気?逃げていいんだよ???




「あれは、『ウルグ』と呼ばれている下層のモンスターですね。コメントにもありましたけど、力が相当あってあの大きさです。人間なんて簡単に潰されちゃいます。」


まぁ。僕みたいな一般人ならね。


「おっ。行くみたいですね。」


アカリは、ウルグに向かってゆっくり歩いて行くと、左腰にある刀の柄を握る。


徐々に近づく・・・・・・・そして刀の届く所まで来た。


「ガァァァァァ!!!!!」


ウルグが声を上げながら右手を大きく振りかぶる・・・・・が、途中でピタリと止まってしまった。




・・・・・・チンッ。・・・・・・




アカリはそのままウルグを素通りする。

ウルグは動かない。




<コメント>


■へ?


■は?


■何?


■ん?


■モンスターが動かないぞ???


■どうなった???




動かないウルグを撮影しながら僕は言う。






「あぁ。斬りましたね。」




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