独を喰らわば花まで

@serizawa_haru

第1話 種蒔き

毒を食らわば皿まで。ということわざがある。毒は静かに忍び寄り、食卓へと上がっていた。知らぬ、存ぜぬと言えども毒を食らってしまったら最後、元の状態に戻すことは叶わないだろう。であれば皿まで喰らうのもまた運命。そんな毒を食らった私、坂井モネの余生をここに綴る。


「起立、礼。」

学級委員の号令がかかり終えると教室は瞬く間に声で溢れ返った。


部活動の準備をする者、机を囲んで談笑する者、各々放課後を謳歌するのだろう。


そんな中私は帰り支度をしていると、教室の隅で固まっている5人組がこちらを見るなりクスクスと笑みを浮かべているのに気づいた。あぁ、きっとまた何かされたんだろう。と瞬時に察した。


私、坂井モネはいわゆるいじめられっ子だ。

小さい頃から教育熱心な母の元で「才能のない奴に生きる価値なんかない」と教えられて育った。運動、芸術、勉学共に苦労した事のなかった私は、ある日テストで思った点数が取れない友人に対してこう言った。


「才能がないんだよ。いっそ人生辞めちゃえば?」


その一言を皮切りに私へのヘイトは強く集まり虐められるようになった。



私は悪い予感が当たらぬよう願いながら下駄箱に向かったが、予感は悉く的中してしまった。


「あぁ、またか。」


私の下駄箱からは白い液体が伝っている。

中を開けてみると、今日の給食で出されたおかずが無造作に詰められていて、牛乳を吸いきったパンからは汁が溢れ出している。


私は溜息を付くのも億劫で、考えることを辞め上履きのまま帰路についた。



中学校から家までは徒歩10分圏内と通いやすい距離だった。遠く聞こえるカタンコトン、という電車の音を聴きながら小さく、そしてゆっくりと歩く。この時間だけが唯一の安らぎだった。


いつも通りの光景、いつも通りの帰り道に浸っていたその時、後ろから声をかけられた。


「坂井さーん!」


振り向くと同じクラスの芹沢エリカが手を振りながらこちらに駆けてくる。


「坂井さんって帰り道こっちだったんだー!

 私も途中まで同じだし一緒に帰ろうよ!」


中学2年に進級してからはあの騒動が起きて以来、私に話しかけてくる者は誰1人としていなかった。そんな中、彼女は何も知らないような口ぶり、表情で私に話しかけてきたのだ。


「帰らない。」

モネは冷たくあしらい、止めていた足を動かす。


「どうして??うち坂井さんと話してみたいなーって前から思ってたんだよねー!美人だしぃ?笑」


にししと笑いながらエリカはモネのあしらいを跳ね除けてそのまま話を続ける。


「坂井さん美術部だって聞いてたから下校時間被るとは思ってなかったよー!退部した感じ?まあそれは置いといても今日はラッキー⭐︎明日から一緒に帰ろーよ!私も帰り道1人は退屈だしさー。」


エリカは何も知らない無垢な子供のように目をキラキラさせながら私を見つめている。


「勝手にすれば?いじめられてる私と一緒にいてあんたまで巻き添い喰らっても私は助けないし、干渉しないから。」


「じゃあお言葉通り勝手にさせてもらうね。

あ、うちの家こっちだから!明日は校門前で待ち合わせねー!絶対待っててよー!?」


一方的に約束を取り付けてエリカは去ってしまった。


「明日は裏門から遠回りして帰ろ」


モネは心に誓った。それと同時に久々の同級生とのまともな会話に彼女の鼓動は高鳴り、あわよくばと淡い期待をしてしまった自分に


「私、最低だな。」


モネはその場に座り込み、鼓動が静まるまで帰りを待った。

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