第8話 スポーツ観戦
楽しかった夏休みも終わり、9月。まだ暑さも残る中、学校でいつも通りの授業が行われていた。
教室はエアコンがついているから涼しい。少し前まではエアコンが教室ついていなかったなんて、信じられない。と言っても私も小学2年生ぐらいまでエアコンの無い教室で汗をかきながら授業を受けていた。
帰りの会で、お知らせの紙やいろんなチラシが配られる。その中に”無料招待券"と書かれた紙を見つけた。無料?タダで何かが見れるなら、見ててみたい。でもそれは、プロ野球の招待券だった。
なんだ、野球か。私は野球のルールは知らないし、選手も誰一人知らない。そういえば今年は野球の大会だかなんかで盛り上がっていた。世界一にもなったとかニュースで言っていたような。でも興味ないな。この紙は帰ってゴミ箱行きかな。そう思い、帰りの会が終わりみんなが教室を出ようとしていた。すると
「唯花ちゃん、さっき貰った招待券で野球観に行かない?別の友達2人に誘われたんだけど、私その子とあんまり仲良くなくて。唯花ちゃんが来てくれたら4人で楽しく観れると思うんだ」
と、田中さんに言われた。田中さんにはいつもお世話になっているし断りづらい。でも、さすがに野球には興味ないし田中さんには申し訳ないけど、首を振ろうと思った。でも、こうやって友達にどこかに行こうと言われたのは初めて。それは嬉しかった。もしかしたら思い出に残る出来事になるかもしれない。そう思うと断るのは何か違う気がしてきた。
「ごめん、唯花ちゃん、野球興味無いよね。他をあたるよ」
そう言って去ろうとした田中さんにを全力で止めようとし、ついていった。
「ん?どうしたの唯花ちゃん?」
私は招待券を見せ、頷いた。
「え、もしかして、一緒に行ってくれるの?」
私は、生まれて初めて野球場に、しかも友達と行くことになった。試合は今週の土曜日。少し楽しみになった。
そして試合当日の土曜日、私たちは駅で待ち合わせをした。駅に着いたら、もう他の3人は着いていた。
「今日は凄い試合になりそうやで」
そう言うのは大西くん。大の野球好きでこの試合をとても楽しみにしている。
「まあまあ落ち着いて」
と言うもう1人は、誰だろう…。大西くんは同じクラスだから知っているけど、もう1人は見たこともない。というか、性別も分からない。
「あ、ぼく川崎。よろしく!」
いいタイミングで自己紹介をしてくれた。ぼくと言っているが、女子っぽく見える。
「私と唯花ちゃんは野球のルールあんまり知らないから、ルール教えてね」
田中さんは2人にそう声をかけた。試合開始の14時がどんどん迫っていた。少し急いで球場へと入った。
球場は屋根がある、いわいるドーム球場。今日は9月なのに暑いから、エアコンが付いてるのは助かる。
「座席は、レフトの上段席だよ」
と川崎さんは言った。私はどんな席かさっぱり分からないが、ついていった。そしてチケットと同じ番号の書かれた席を見つけた。というか、球場はかなり広い。初めて来たけど、なんだかワクワクしてきた。
14時に、試合は始まった。野球のルールを知らない私は、まずどこを見ていいのかすら分からなかった。試合が進むにつれ、試合の流れをやルールを大西くんと川崎さんが丁寧に教えてくれた。とは言ってもやっぱりよく分からない。正直退屈だ。私は一度、お茶を買いに行こうとした。お茶を買って席に戻ろうとしたが、席からお店まで結構歩いてきてしまった。さっき、右から来たのか、左から来たのかすらも忘れてしまっていた。どうしよう。道に迷った、いや、球場で迷った。私は困り果てた。仕方がない、一か八か右に行って、席にたどり着くことを祈ろう。そう思いながら通路を歩いて行った。見たことあるような、無いような景色。通路は特に景色が変わらないから、通ったかすらも分からない。そして思った以上に球場って広い。それから10分も歩いた。もう、座席には戻れそうにない。
どうしていいか分からなくなった私は、出口から帰ろうかと思った。3人には何て言えばいいか分からないけど、私は携帯電話も持っていないし連絡の手段もない。でも勝手に帰ったら心配すると思った。話せない時もそうだけど、困ったりパニックになると頭が真っ白になって働かない。
すると、
「唯花ちゃん、いたいた!」
田中さんの声だった。田中さんは、戻ってくるのが遅い私を心配して探しに来てくれたそうだった。無事に座席に戻ることが出来た。それで、肝心の試合はどうなっているのだろうか。大西くんたちが応援しているチームは…3対1で負けているみたい。
試合開始からすでに2時間半が経ち、大西くんは
「あー今日はアカンかな。相手の抑え良すぎるもん」
なんだか今日の試合はあまり面白く無さそう。試合も終盤らしく、勝ち目もあまりないという川崎さん。
「唯花ちゃん、もう帰る?見ていても暇でしょ?」
田中さんにそういわれ、帰ろうかなと思った。すると
「お、9番バッター塁に出たで。」
大西くんは、そう言った。
「9回の裏で2点差。相手は凄い守護神のピッチャーらしいけどノーアウト1塁だから、まだまだ諦める点差じゃないよ」
と川崎さん。あまり期待しない方がいいのかもしれないが、私は最後まで観ていくことにした。そして次のバッターも塁に出て、ノーアウト1,2塁らしい。
「あーバント下手か!送られへんかったか」
大西くんはため息をついた。1アウト1,2塁で3番バッターに回ってきた。
「3番バッターの選手、さっき代走で出てきた選手だからあまり打てないんだよね」
川崎さんは、優しく説明してくれる。結局3番バッターもアウトになったらしく2アウト1,2塁で4番の選手に打席が回ってきた。
すると、何だか球場の雰囲気が一気に変わった。さっきまでどんよりとした雰囲気だったのに、急にファンの声援が大きくなって、盛り上がってきた。
「頼む、打ってくれ!」
大西くんは手を握り締めた。
「こっちのファンはサヨナラホームランを期待してるけど、相手のファンはあと1人抑えれば勝ちだから、お互いのファンが熱くなってるよ」
川崎さんが説明してくれた。でも、この雰囲気は嫌いじゃない。ルールも全然分からなかったし途中まで退屈だったけど、友達と過ごすのはやはり楽しい。そんなことを考えていた時だった。
球場のファンの声援が今日一番の大声になった。一体どうなったんだろう?
「よっしゃー!サヨナラ3ランホームランや!これを期待してたんや」
大西くんははしゃぎまくっていた。
「勝ったんだよ。ぼくもまさか打つとは思ってなかったから、感動したよ」
応援していたチームは、4対3で勝つことが出来たらしい。私も嬉しくなってきた。そしてこの球場の盛り上がり、すごく鳥肌が立った。スポーツって、面白い。そして何より、友達と遊びに行くのは最高だ。
大西くんと川崎さんは球場にまだ残ると言い、田中さんと私は先に帰ることにした。
「私もルールあんまり分からなかったけど、面白かったよ。唯花ちゃんはどうだった?」
と田中さんに聞かれ、うん。と頷いた。
「楽しんでくれたみたいでよかった。今日は一緒に来てくれてありがとう」
そう言って、お互いの家に帰っていった。
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