第5話 異世界初めての魔法
「ここは……そうです。すごいですね、その年で何も教えなくて計算できるのは才能がありますよ」
俺は今、フーリアさんに簡単な計算を教えてもらっている。
といっても、前世の記憶がある俺にとって、流石に小学校ぐらいの算数じゃあつまづいたりなんてしない。
それよりも、フーリアさんの子供のような見た目と、子供の俺が並ぶことにより、子供同士の『お勉強会』みたいな雰囲気がでて、少し面白い。
「さて、計算の時間は終わりですね。次は語学です」
計算に関しては何不自由なくできている自分でも、語学だけはどうしても苦手だ。
特に文章が一番苦手である。
話すことに関しては、あの幼女天使の謎技術で日本語に勝手に翻訳されているが、どうも文字だけはそうもいかないらしい。
なんとか文字の形を覚えることはできたが、問題は文を作るときの文法だ。
「ああ、ここ。それだと意味がおかしくなってしまいます」
文字は書けるし、言葉も喋れるのに、文章を書くことができないのはおかしい。最初の頃はフーリアさんも俺の事を疑っていたが、俺が本当に文章を書くことができないとわかると、怪訝そうな顔で授業をしてくれるようになった。
「先生、こうですか?」
俺がそう言うと、フーリア先生は、
「はい、そうです。ただここの部分をそうするなら、この表現を加えてみるとより綺麗にみえますよ」
と的確にアドバイスをしてくれた。
「先生は、この国の言語以外に、何か話せる言語ってあるんですか?」
なにも考えずに俺はフーリアさんにそう質問した。
「そうですね、別の大陸の言語を何個かと、魔人の使う言葉も多少は話せますよ」
「魔人?」
なにやら興味深い単語がでてきたので、俺は聞き返す。
「そうです。人間にはいろんな種族がいることは知っていますよね?」
「はい」
この世界では、俺のような『人』以外にも、『エルフ』『ドワーフ』と言ったような様々な種類の人間がいる。
ドワーフは山で鉱石を掘ったり、武器を製造したりし、エルフは森の奥でひっそりと暮らし、ごく僅かなエルフが人間と交流をしたりするという。
小さい頃に本を読んで、どの種族にもいろんな特徴があって、面白かったと思ったのを今でも覚えている。
「魔人は、その人間種族のどれかが『魔物化』して、生まれた新しい人間種族なんです」
『魔物化』、なにやら更に興味深い話題がでてきたぞ。
「魔物化?」
「そうです。元来、魔物とは牛や豚などの動物が、体内の魔力の暴走で、変化したもののことを言うのです。それを世間では魔物化とよんでいますね。竜なんかが魔物化した時なんて最早災害です」
この世界ではどんな生物も魔力をもっているのかな。
そういえばフーリアさんは魔力の暴走で、身体が成長しなくなったと言っていたはずだが、それは魔物化したということなのだろうか?
「先生、先生は魔力が暴走して身体が成長しなくなったんですよね? 魔力が暴走したのなら、それは魔人になったんじゃないんですか?」
俺がそう言うと、フーリアさんは、いえ、と最初に置いて話し始めた。
「私の場合は、魔力が完全に暴走せずにいたので、魔人になることはなく、ただ身体が成長しなくなるに留まりました。ただ、その時の出来事が原因で魔力量が普通の人間より多くなりましたが」
魔力が暴走すると、魔力量が多くなるのか。良い事を知った。
「話が脱線しましたね。丁度いいのでここで魔法の勉強に移りましょうか」
そう言ってフーリアさんは席を立った。
何をするのだろうか?
「何をするんですか?」
俺がそう言うと、フーリアさんはコートハンガーから自身のローブを取って、羽織りながら言った。
「何を言ってるんですか? 魔法の勉強と言ったら実技以外にありません。座学なんてしても魔法は一向にうまくなりませんよ」
そう言って、フーリアさんはドアを開けて、先に外へと出ていった。
といっても魔法の予備知識なんてないし、先に座学からはじめてもらいたいのだが……。
俺はそう思いつつも、フーリアさんの後を追うように俺も外へと出た。
外に出ると、フーリアさんは家の庭の真ん中あたりで、バッグの中から何かを取り出していた。
本だろうか? 妙に黒く塗装されているその本の表紙には『基本的な詠唱魔法全集』と書かれている。
要するに魔術書というわけだ。
「杖は使わないんですか?」
俺がそう言って、フーリアさんに近づくと、
「あれは魔法の威力を大きくするものですからね。ここで杖を使って魔法を発動すると大惨事になります」
そう言って、フーリアさんはバッグの中から小さい杖を取り出した。
フーリアさんの持っているものとは大きさも色も違うが、先端には緑色の石がついている。
「あれ? さっき先生……」
俺がそう言おうとした瞬間に先生は言葉を遮るようにして言った。
「あなたの場合はまだ初心者ですからね。杖を使わないと、魔法が発動できたかわからない可能性があります」
なるほど、たしかに素の状態で魔法を発動しても、威力がよわすぎて気づかない可能性があるのか。
「では、私の真似をしてください」
そう言って、フーリアさんは右手を前に突き出し、空中に円を描くように、右手を振り回した。
「強かなる精霊よ、我に力を貸し、地を穿て、『メイクホール』」
バリバリの英語だな。
そう思った瞬間、フーリアさんから少し離れた位置の地面が大きく崩れ始め、大きな穴が空いた。
穴が空いた周辺には土がこんもりと積もっている。
「すごいですね……どうやったんですか!?」
俺がそうフーリアさんに言うと、フーリアさんは自慢げな顔をしながら、説明を始めた。
「簡単ですよ。右手に力を入れて、それを詠唱しながら外に放出していけばいいんです」
どういう事だ……?
右手に力を入れて、外に放出? どうやるんだ?
「まあものは試しです。実際にやってみてください」
俺はそう言われて、うろ覚えに杖を持っている右手を前に突き出した。
まぁ、こういうときって大抵すごい威力の魔法をだして、フーリアさんに『凄いですね! 天才です!』なんて言われるんだろうな。
俺はそんな邪な考えをしながら、詠唱を始めた。
「強かなる精霊よ、我に力を貸し、地を穿て……」
確か、右手に力を入れて、外に放出するような感じだって、言ってたよな。
「──メイクホール」
俺がそう詠唱すると、目の前の地面の土が徐々に動き始めた。
おお、成功してる成功してる。
これは本当に最強の威力が出るんじゃないのか?
そう思いながら、地面に大きな穴が空いているのを待っていると……土の動きが止まった。
……なんで?
「まあまあですね。最初にしては上出来です」
フーリアさんがそう言って、拍手をしている。
まあ、才能なんてないよな。俺は元々社畜だし。
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