第3話 実績:[異世界での生活]を達成しました。

 あれから約5年の月日が流れた。

 だいぶ異世界での生活にも慣れた……と思う。


 それに情報収集の件についても、それなりにできている。

 まず最初に説明しておきたいものがある。

 それは『魔法』についてだ。


 おいおい、ついに転生をしたという戯言から、魔法があるって幻覚を見はじめるようになったか? と言われそうなものだが、実際に魔法はあるのだ。


 魔法と言っても、いろいろな種類があるのだが、説明するのは流石に面倒くさいので、基本的なことしか説明しない。

 というか、説明するだけで一ヶ月はかかるのだ。教えれば日が暮れる。


 まず属性、これに関しては火、水、土、風、光、闇の計6種類の属性がある。属性に関しては文字通り、火なら火を、水なら水を操れるというだけなので、説明はしない。


 次に魔法だが、これにもいろんな種類がある。

 詠唱をしないで発動する威力が低い魔法『基礎魔法』。

 詠唱をすることで発動する基礎魔法より威力の高い『詠唱魔法』。

 基礎魔法や詠唱魔法とは勝手の違った『治癒魔法』。

 が、おおまかに分けられる。

 

 治癒魔法がなぜ基礎魔法や詠唱魔法とは違う分類なのかは俺にもわからないが、たぶん細かいところで違うんだろう。


 あとは魔力についてだが、これも魔法を発動するために消費するだけなので、そこまで深い説明はいらないだろう。


 この事を踏まえて、俺が5年前に悩んだ心配事が解決した。

 俺が5年前に心配したことは感染症についてだが、どうやら大体の感染症は治癒魔法で治すことができるらしい。


 がんとか、結核とかはそれなりの魔力は使うが、それでも治癒魔法を使えば治せるらしい。

 なんというご都合主義。


 次に、俺が異世界にきて一番驚いたことがある。

 それは、本が安いということだ。


 俺は3歳になるまで、この世界では本が高価なものと思っていたのだ。

 そりゃそうだろう、中世ヨーロッパの時代観で本なんて貴重品も貴重品だ。

 まず紙が高価で、次に印刷に時間がかかる。

 

 もちろん中世ヨーロッパの時代に、現代のような自動化された印刷機はなかったので、地球の中世では本が高価だった。

 

 それを俺は異世界でも同じだと決めつけていたのだが、実際には土魔法を利用した道具で紙を大量生産し、印刷技術も魔法の力を使うことで底上げされているので、この世界での本は現代日本と同じくらいの感覚で買える。

 これもまたなんというご都合主義。

 まあそのお陰で、この世界の知識を蓄えることができたのだけれど……。


 それと、わかったのは異世界の常識だけではない。

 両親のこともある程度は分かるようになったのだ。


「リーバ、ご飯できたわよー」


 晴天の空を眺めていた時、家から母であるエリカの声が聞こえた。

 リーバ、それがこの家での俺の略称だ。


「外で何してたの?」


「何でも無いよ、それより父さんは?」


 俺は周りを見渡してみる。そこにダイアーの姿が見えない。朝まではずっと机の上で何かをしていたのに。


「ああ、お父さんはさっきどこかに出かけて行ったわよ。村の集まりですって」


「ふーん」


 俺はそう言って、スープをすする。

 美味しくは無いが、不味くもない。微妙な味だ。例えるなら味のないガムを延々と噛み続けているような、そんな感じだ。


「ただいまー、飯はあるか?」


 俺がスープを食べ終わると同時に、俺の父親であるダイアーが帰ってきた。

 なにやら疲れている様子だ。


「意外と早かったわね。疲れているようだけど、どうしたの?」


 母さんが父さんの疲れている様子が気になったのか、そう聞く。


「最近魔物が多いだろ? それで領主と自警団のやつらが揉めたんだ。『お前らがロクに駆除しないから魔物が増えてるんだろ!?』ってな」


 父さんはそう言ってため息をついた。

 最近の父さんは目に見えてやつれてきた。

 父さんが所属している自警団の仕事が、最近の魔物の増加でふえ、それに並行して本職である畑仕事も頑張っている。

 

 現代日本での過労死ラインは優に越しているであろう仕事量だ。


「それはお疲れ様。このあとは畑に行くの?」


 母さんは心配そうに、父さんにそう聞いた。

 おそらく、父さんが畑仕事をすると言えば、母さんは手伝いに行くのだろう。

 

「ああ、だけどエリカ、君は家でリーバの面倒を見ててくれないか」


 父さんは母さんの返事を予想し、先手を打った。


「でも……」


「でも、じゃない。リーバはまだ小さいんだ。君の目がないと心配だ」


 父さんは母さんの肩をがしっりと掴み、そう言い聞かせた。

 でも、俺はそんなにお転婆でもないし、父さんは母さんに過保護すぎる節がある。少しは母さんの意見を聞いてもらいたいものだが……。


「わかったわ……。じゃあ、お手伝いさんを雇いましょう」


「だから……え?」


 父さんは目を丸くして、そう口に漏らした。


「リーバが心配なら、お手伝いさんを雇えばいいだけだわ、お金はあまってるでしょう?」


「いや、だから、そういうことじゃなくて……」


 父さんはなんとか母さんを労る言い訳を探しているが、何も言えずにどもっている。


「それともなに? 私に畑仕事ができないと思っているの?」


「そうじゃないんだ! だけど、その……」


 こういう時の父さんは母さんにめっぽう弱くなる。だから、喧嘩が起こりそうになっても、先に父さんが折れてしまい、夫婦喧嘩になることは少ない。


 そして今回もその例に漏れること無く、


「わかったよ、お手伝さんを雇おう。できるだけ低賃金の人を」


 父さんは面倒くさくなって、母さんの提案を飲み込んだ。 

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