第24話 勇気を示した先にある未来
「わ、私がですか!?」
「そうよ! やれるのは、貴女だけなの!」
やれるのならば直接ダンジョンの核の破壊に移りたい。けれどもここでアイルと一緒に魔法を維持するのが限界だった。詠唱が長かった分維持に費やす魔力も多く、今用意してくれたポーションを飲んだところで1分維持出来ればいいところのはず。
「で、でもどうやって!? あ、あんな硬そうなものを壊せるなんて――」
「やれる! あれはたたけば、壊せるものなのっ!」
けれども問題ない。何故なら、あれは物理的な衝撃に弱いのだから。
「そ、そうだった! アレは子供でも何度も叩いてれば割と簡単に壊れるって話を他の奴らから聞いたことがある!」
ダンジョンの核周辺は無数の魔物に囲まれている上、魔法に対する強度も高いために遠くから破壊するのは難しい。ただしそれは単純な難易度に関しての話でしかない。スカーレットも述べた通り、切ったり叩いたり矢で射抜いたりすればあっさりと壊れてしまうのだ。そのことをルミナスライト学院で実際にダンジョンに潜った際に見たことがあった。
「だからベティ、おねがい! 今はあなた、しか――っ」
『貴女しか頼れない』と伝えようとした時、一瞬クラッと立ちくらみが起きてそのまま倒れそうになってしまっていた。
思った以上に魔力の消費が激し過ぎて、意識を保てなくなってしまっている。やはり私が直接ダンジョンの核を叩く余裕は無かったというのを改めて痛感した。
「お嬢様のことは私がどうにかする! だからベティ、やってくれ! この人の言うことが信じられないってのか!」
「――っ! はいっ! わかりました!!」
先程まで自分に出来るのかと不安になっていたベティも、私とスカーレットの言葉を聞いてその表情が変わった。意を決した様子でスカーレットに魔力回復のポーションを渡すと、私とアイルが開いたダンジョンの核への道を走っていく。
「はい、フタ開けた。早く飲んで! 私はまだこんなところで死にたくないからね!」
そしてスカーレットが差し出してくれたポーションの小瓶に直接口をつけ、その中身を煽っていく。このまま魔力が切れてしまえば、先程から出現している魔物の群れを2つの津波で吞み込んで抑える状況も維持できなくなる。
――話はちゃんと終わったな! いい加減魔石をセットしろ! 直接お前から吸い上げても俺は構わないんだぞ!
「わかってます!――スカーレット、さいごの、さいごの魔石を!」
「はいよ! セットは私がやるからお嬢様は魔法に集中!」
冗談にしては質の悪いアイルの言葉を適当に流しつつ、息を合わせてベティが進む道を私達は確保し続ける。ポーションのおかげで体の中に魔力が満ちるのを感じ、最後の魔石をスカーレットがセットしてくれたおかげで体から力が吸われる感覚が消えた――後はベティが全てを終わらせるだけ。
「行きなさい!」
――行きやがれ!
「行けー! 行くんだー!!」
「わぁあああぁぁあぁ!!」
声を上げながら走っていく彼女の後姿に全員で声をかける。あの子だけが今は頼りの綱。ならば残りの魔力を全て使ってそれを後押しするだけ。そう思った矢先、またしてもダンジョンの核が妖しい光を放った。
「またダンジョンの核が光って!?」
――上だ! 津波を押し上げろ!!
「言われずとも!!」
光が収まった途端、現れた5匹ものハーピーがベティを襲おうと急降下してくる。私とアイルはそれに合わせて津波を操り、それらを呑み込んでいく。
「あぁもうホント油断も隙もありゃしないじゃないか! どうすんの!」
「決まってます……まもるのよ、ベティを!」
――ったく仕方ねぇなぁ。俺らで屋根を作るぞ!
すぐに私はアイルと息を合わせて水の屋根を作ってベティを守りつつ、中に囚われた魔物どものかく拌を続ける。ゴブリンキングのせいで強化された上位のゴブリンや、マーマンのようにただ水の中にいるだけでは簡単に死にそうにない相手にはこれぐらいやらなければ意味が無い。
「――ありがとうございますお嬢様!」
「って、今度はベティの後ろからだ!」
今度は流れに抗おうとしたゴブリンキングやマーマンが悪あがきをしようとした。取り込んでいた水の壁から這い出てベティが走り抜けた道へと出ようとしていたのだ。間違いなくベティを後ろから襲おうとしている。
「そちらも塞ぎ、ます!」
私は即座に水を操り、ベティが走り抜けた後ろを塞ぐ。襲おうとしていた魔物どもの動きを許さず、暴れ狂う水の中で溺れさせ続ける……しかしここで強大な魔法を使い続けて来た反動が私にも訪れていた。
「くっ……ぁっ……目、が……」
「お、おいお嬢様! しっかり、しっかりしろ!」
魔力回復のポーションを飲んで回復をしたにもかかわらず、既に魔力は底を尽きかけている。応急手当をしてもらったとはいえ、左ももを貫いた痛みはもう無視出来なくなっていた。
「あとちょっと……もう届きます!」
本当にあとほんの少し……あと
――チッ! もう魔石も限界だぞ!
悪いことは立て続けに起きる。アイルにセットしていた魔石もくまなくヒビが入ってしまっていた。
「うわぁあぁあぁ!」
今ようやくダンジョンの核までたどり着いたベティが解体用のナイフを振り下ろしている。その亀裂がわずかずつ広がっているのが見えている。けれどこのままでは二重の津波を維持できない! あの子を守れない!
「ど、どうすんだよ! いいとこまで行ったってのに……このままじゃ共倒れじゃないか!」
ベティがつけた亀裂は核の上半分まで及んでいる。けれどここでベティが魔物にやられてしまえば何もかもが水の泡になってしまう――隣で荒れているスカーレットを他所に私はある決断を下す。
「あーもう金に目がくらんだ私がバカだった! どうすんだ! 何か手はあるのかよ!」
「あり、ます……」
――おい、本気か?
ギャーギャーうるさく騒いでいるスカーレットに私は手短にそう伝えれば、いつになく真剣な様子のアイルが語りかけてくる。私は口角を上げ、目を見開きながらそれに応じた。
「本気、ですわ……わたしの、すべてを……もって、いきなさいっ!!」
もう私自身は魔法を発動出来ない。今まで維持していた『タイダルウェーブ』も消えてしまうのは避けられない――けれどそれはあくまで私だけだ。
――いいだろう。契約者セリナ、お前の命を以て我が魔法を発動し続けてやる!!
前の持ち主から押し付けられたこの棒は持ち主の生命力を削って魔力に変換する能力がある。今が、その時だった。私の命に替えてでも、絶対にベティは守り抜く!!
「ぅぐっ……ぁあぁぁあぁあぁっ!!」
どうせここで時間稼ぎが出来なければ何もかもが終わるのだ。戦えない女3人の末路なんてわかりきった未来しかない。ならばこの身を削る痛みを堪えてでも、私は抗う。その決意を今こそ見せる時!
「壊れて……壊れてぇぇ!!」
「あーもう……ベティ頼むぞ! 早くぶっ壊せ!!」
私の維持していた『タイダルウェーブ』が消えた分、津波の勢いも弱まってしまった。けれども既にベティはダンジョンの核の上から下までやや浅めではあるものの、亀裂を広げてくれていた。後はもっとそれを深く、広くして砕くだけ。
――ったく! こんな時に!
勢いが弱まったとばかりにダンジョンの核が再度輝く。現れたマーマンをアイルが魔法で横へと一気に押し流していく。もうかく拌するほどの余裕がないせいか、とにかく魔物を横へ追いやって時間を稼ごうとしていた。
「ナイフが――あぁあぁぁあああぁっ!!」
核に更に深くヒビが入ったところでベティの使っていたナイフが根元から折れてしまったらしい。ベティは握り拳を作ってひたすらに核を叩いている。
「ぁ……ぐっ……」
目が霞む。アイルを握る手に力が段々と入らなくなってきている。思った以上に生命力を魔力に変えるのは危険なようだった。もう二度としない。危険な橋を渡る真似は絶対にやらない。上から下までダンジョンの核に亀裂が走ったのを見ながら私は必死に右手に力を入れ続けていた。
「もう――壊れてぇぇえぇえぇ!!」
何度となく手を振り下ろしていたせいでベティの拳は血で真っ赤になってしまっている。その叫びと共に振り下ろされた途端、ダンジョンの核がいくつかの塊となって砕け散った――その瞬間、私達の勝利が確定した。
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