第27話 ダンジョンにあるオアシス②

「ア゛ア゛――――――ッ‼」


 モンスターの咆哮は水浴びをしていた女性たちにも聞こえていた。

 

「何今の?」

「魔物の声⁉」

「どこから聞こえたの? 結構近かったわよ」


 慌てる女性が多い中、そこは歴戦の女性たち武器を手にして臨戦態勢をとる。


「こっちよ。この壁の向こうから戦闘音が聞こえる」


「ん。ご主人様が戦闘中」


「戦闘中ってこの向こう地図にも載ってないわよ。まさか隠し部屋⁉」


「ねえねえ、これ鏡だと思ってたけどよく見るとマジックミラーじゃない」


「! 危ないのだ! 今すぐそこから離れるのだ!」


「「えっ⁉」」


 獣人族の少女が叫んだその刹那、鏡いや壁ごと内側から破壊されたように壁面が破壊された。

 そして、壁面の破片とともに現れたのは黒い大型のモンスター。


「ありがとうルーさん……」

 

 獣人族の少女によって間一髪のところを助けられた女性がお礼を述べるものの、その現れたモンスターに言葉を失う。


「何アレ⁉ 類人猿エイプの進化種? いや変異種?」


「変態種よ。変態種!」


 頭に縞々パンツを被った変態モンスター。黒い毛皮に覆われた猿型モンスターは、この階層に出没するテナガザルの上位種だと見ればわかる。

 全身に刀による切り傷があるそのモンスターは、その傷を負わせた者より周囲にいる女性たちにその視線を向ける。


「いやあぁぁぁぁ! こっち見た!」


 女性を見た黒いテナガザルは、不気味な笑みを浮かべると女性に襲い掛かろうとする。だが、そこに割って入る人物がいた。


 銀色の閃光が迸る。


「グオォォォォォォッ!」


 銀の軌跡はモンスターの表皮を切り裂いた。

 しかし、厚い毛皮に覆われたモンスターには致命傷は与えれていない。

 太い筋肉質の豪腕は対峙者の女性のウエストよりも太い。


 縞々パンツを被った黒い変態猿と僅かな距離で対峙するのは、6英雄の一人 森口 実耶華その人だった。

 変態猿の荒い鼻息が美耶華を刺激する。

 今にも飛び掛からんとするその醜悪な顔に嫌悪感を覚える。


 そして、変態猿が再び咆哮を上げる。


「ア゛ア゛――――――ッ‼」


 壁越しではない至近距離での咆哮。

 耳が痛い。しかし、美耶華はそのチャンスを逃さなかった。


 下段からの斬り上げ。

 裂かれた腹から緑色の鮮血が飛び散り、変態猿は堪らず呻き声を上げるが同時にそのハンマーのような腕が振り上げられる。


 攻撃はもらえない。

 対格差はもとより、今の彼女は裸も同然だった。

 身に付けているのは1枚のタオルのみ。

 当たれば即座に吹っ飛ばされる。


 しかし、その腕が振り下ろされることはなかった。

 側面より一気に畳みかけるような攻撃。


 両手にそれぞれ持った一対の短剣による連撃が、変態猿の黒い身体を濃い緑色に染め上げていく。

 小柄な少女による圧倒的な手数による連続攻撃。


「はぁっ!」


 連続攻撃の終わりとばかりに体重を乗せた回し蹴りが変態猿の腹部に叩き込まれる。

 小柄な少女の蹴りとは思えぬほどの威力のそれは、変態猿の巨体を吹き飛ばすには十分だった。


 吹き飛ばされた変態猿は壁を突き破り部屋の中へと消えていく。

 そして、聞こえてくる大きな物音。


 それ以来部屋の中からは物音が聞こえなくなった。

 



 美耶華たちは、恐る恐る薄暗い部屋の中を覗く。

 静寂に包まれた室内で美耶華たちが見たものは………。




 ――――頭に赤い縞々パンツを被った変態猿の頭。

 

 そして、頭とおさらばした胴体が地面に横たわっていた。

 その胴体が粒子となって消えていく。


 残されたのは、赤い縞々パンツと青紫に輝く水晶のみ。




「倒したの? あの魔物を……」


「何アレ? 超ヤバくなかった? あんなの見たことないよ」


 モンスターが倒されたことで安堵する女性たち。

 だが、そのモンスターを倒した人物がここにいることも一部の人たちは見逃さなかった。


「正宗! ここにいるんでしょう⁉ 隠れてないで出てきなさい!」


 穂香もその一人である。


「ま、正宗君⁉ ちょっ!」

「きゃあぁぁぁぁ! 出てこないでぇぇぇぇ!」


 慌てふためく女性たち。


「………」


「ルーちゃん。正宗はどこ?」


「ん。あっちの崩れた岩場の後ろ」


「ありがとうルーちゃん。ほおら正宗……怒らないから出てきなさい」


「………」


 返事はない。




 穂香と獣人族の少女。そして、美耶華の 3人が岩場へと赴くと。


 岩場の影で手のひらを地面に付け、額が地面に付くまで伏せた少年の姿があった。


「ご主人様何してるのだ?」


「………すみませんでした。決して覗こうとしてたわけではございません」


「だそうよ穂香ちゃん。土下座までしてるんだから許してあげたら?」


「ゆ、許すもなにも……お、怒ってなんていないわよ」


「穂香……ありが――――っ!」


 土下座している少年が頭を上げようとしたその時。少年の顔、頬の真横に真紅の日本刀が突き立てられた。


「………」


「あ、あの穂香ちゃん……?」


「状況を説明してくれるかしら?」


「……はい」


 少年は震えるようにそう答えた。





  ◇


 僕は目隠しをさせられて皆の前へと連行された。

 そして、正座をさせられ一部始終を話した。

 一人でテナガザルの集団と戦闘したこと。

 謎の声のこと。その声に導かれるように隠し扉を見つけたこと。

 隠し部屋であの黒いテナガザルと戦闘になったこと。

 黒いテナガザルが部屋の外に飛び出し、ボロボロになって再び隠し部屋の中に戻ってきたこと。

 そのテナガザルの首を跳ね飛ばし止めを刺したこと。

 そして、そのまま身を隠したこと。


「なんで隠れたの?」


「それはその……」


「つまり私たちの裸を見たってことよね?」


「………」


「で、どうだった? 私たちの裸は? 興奮したか?」


「………」


 いつの間にか目隠しが解かれていた。

 森口さんみやりんの顔がすぐそばまで迫っていた。


「ふふ~ん。口と違ってあそこは正直だな」

 

 森口さんみやりんの言葉で集まった女性たちの視線が集中する。

 

「「きゃああぁぁぁぁぁっ!」」


 黄色い声が上がる。

 女性たちがまじまじと見つめるそれは、辱めを受けてもなお大きいままおさまりが付きそうもない。

 しょうがなくね? このシチュエーションで立たない高校生はいないと思います。


 というか何? この羞恥プレイ……年下の男子高校生イジメて楽しいですか?

 絶対面白がってますよね。

 面白がって挑発的ポーズ取らないでください。

 ほらほら、誰かさんが睨んでますよ。

 てか、穂香……お前顔真っ赤だぞ。大丈夫か?



「あの変態種……もとい変異種はデータにもない個体ですね」


「このパンツで特殊進化したのかしら?」


「さあ、現時点ではなんとも……」


「……このパンツ。ドロップ品? それとも前に盗まれたってやつ?」


「さあ、そちらもなんとも……」


「じゃあ戦利品として倒した正宗君にあげようかしら」


「いいと思います。貴重なサンプルとして保管しておいてくださいね」


「………」


 ん? 何かおかしな方向へと話が行ってるぞ。


「モンスターが被ってたやつじゃ物足りないかしら?」 


 ポトリと僕の目の前に 1枚の布切れが落とされた。

 ピンク色の布切れ? いやよく見ると……それが女性物のパンツだと理解するのに時間は掛からなかった。


「いやぁぁぁぁぁっ!」


 慌ててそのピンクのパンツを拾う人物。

 それは、紅潮した顔の穂香であった。

 

「何するんですか!」


「何って、正宗君へのご褒美よ」


「だったら自分のにしてくださいよ。何で私の、しかも……さっきまで履いてたやつじゃないですかぁぁぁ!」


「だからご褒美だって言ってるでしょ」


 ギャアギャア喚く穂香……いやいや、僕だってそんなお宝パンツ貰ったって困るぞ。

 そもそも、それを僕にどうしろと……?

 しかし……穂香……お前。あんなの履いてたんだ……。



「もう、美耶華ったら。男の子へのご褒美ったらこっちでしょ」


「えっ!?」


 森口さんみやりんの背後に立つ相川さんかれん様が、その背中を押した。

 それは即ち……正座をする僕に森口さんが倒れてくることを意味する。


 

 僕は森口さんを受け止められずに後ろへと倒れ込む。




「痛たたた……森口さん、だいじょ……」


 僕の前にはニマニマした相川さんがいて、その手には白いタオルが握られている。

 そして、頬に当たる温かいクッション。左手にはこの世のものとは思えないような柔らかな感触が……。

 …………

 左手が沈み込む。なんだこの弾力は……。

 僕の目線の先には……柔らかい物体のぷっくりとした先端部分がある。

 これはいったい……どんな状況だ?


「あら、大胆♡」


 

 そのとき……僕の頭上で階層主様が御降臨なさいました。


 あっ!……これ……死んだわ。

 サヨウナラ 仙道 正宗 16歳。短い人生でした。

 来世でお会いしましょう。





――――――――――――――――――――――

   完


 ではなくて、あとがきです。


 ヒロイン穂香とルーちゃんのイメージ画像を近況ノートにてUPしました。

 あくまでもイメージってことでツッコミはなしでお願いします。

 てなことで、今後ともよろしくお願いいたします。

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