第24話 渋谷ダンジョン③

 セレモニーが終わったハチ公前広場では、ある探索者の噂で持ちきりになっていた。その噂はSNSを通じて広がりを見せ、掲示板にはスレも立てられていた。


 ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 1:名無しの探索者

  噂の女子探索者のスレ立ててみた


 2:名無しの探索者

  あれは凄かった

  何がとは言わんがw


 3:名無しの探索者

  kwsk


 4:名無しの探索者

  セレモニー前にあのJINたちが〇乳の女の子にボコられた


 5:名無しの探索者

  >2 揺れてたね


 6:名無しの探索者

  >5 そこもだが顔も可愛かった


 7:名無しの探索者

  柔道とか合気道の達人だろ


 8:名無しの探索者

  >6 そうか?


 9:名無しの探索者

  関係筋によるとまだ高校生らしいぞ


 10:名無しの探索者

  まじか? JKにボコられるJINワロタww


 11:名無しの探索者

  俺は一緒にいたコスプレっ子も気になる


 12:名無しの探索者

  がせだろ JKがこのイベントに呼ばれる訳ない


 13:名無しの探索者

  >11 それな 


 14:名無しの探索者

  ニャールズの関係者か?


 15:名無しの探索者

  しらん


 16:名無しの探索者

  >14 その可能性も高い 情報求む



 ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 そんな噂が流れているとは露程も思っていない当事者は、10層階層主に挑もうとしていた。


「これまですべての魔物を一刀の元に倒してきた彼らは、階層主にどう立ち向かうのかぁぁぁ! 注目の一戦が今始まります!」


 先発隊のBランク探索者は戦闘に参加する気もなく、実況動画を撮っていた。


「この10層の階層主の名はアーマードバグ、見た目はまあ……見たまんま巨大なダンゴムシです。ですが、恐ろしいのはその硬い外装部分。丸くなって転がって攻撃してくる姿は大玉か巨大なタイヤそのものです!」


「あのトゲトゲがイヤらしいんですよね」


「そうですね。イボイボが超キモチイイんですよ――って、何言わせるんですか! おおっと! 先制攻撃はアーマードバクの回転攻撃からだぁぁ! 迎え討つは期待の新人正宗君。回転攻撃を避けてからの攻めに注目いたしましょう! しかし、正宗君は動こうとしません。十分引き付けて躱そうというのか、刀も抜いていません」


「いや、彼は狙ってますよ」


「狙うってまさか、高速回転してくるアーマードバクを―――まさか、まさか、そのまさかだぁぁぁぁ! な、何という男だ! 彼の居合切りは階層主も一刀両断しました! 恐るべしはその抜刀術! 回転攻撃はその硬い外装と遠心力で物凄い破壊力と防御力を生むはずですが、彼はそれを真向正面から打ち破りました」


「鎧袖一触! まさか階層主を一撃とは恐れ入りました」


「その彼の元に大勢の女性が駆け付けます! 年下の高校生とはいえそこらの男性探索者を遥かに上回る期待の新人探索者。将来有望の優良物件である彼のハートを射止めようと皆狙ってますからねえ」


「今現在は幼馴染の彼女がガードしているようですが、どうでしょうか?」


「魅力的な女性がそろっていますからねぇ。大人の魅力と誘惑に彼が耐えられるのか、それとも野獣になるのか楽しみですね」


「と、いうことで私も参戦しようと思います!」


「あっちょっと! ズルいよぉぉ! 私も行くっ!」



  ◇


 階層主である巨大ダンゴムシを一撃のもとに倒した僕は、お姉さんたちに囲まれて揉みくちゃにされていた。

 なんか必要以上に柔らかいものが押し当てられている気が……。

 それだけならいいのだが……僕の両手がそれぞれ柔らかいものに触れているのはなぜ? 事故だよね? 指が弾むゴムまりのような幸せ感触―――って、このままでは痴漢に間違われてしまう。

 だが、僕の意思とは別に腕の自由は奪われ、押し寄せるお姉さんによって全身……顔にまで物凄く柔らかいゴムまりが………。

 

 えへえへえへ……いい匂いと素晴らしい全身マッサージ。

 そう、全身にビリビリが……ん? ビリビリ⁉


「「ギャアァァァァァ!!!」」


 突如、僕と僕を囲むお姉さんたちを痺れが襲う。


 う、うぅぅぅ……こ、これは……電撃⁉ 

 こんなことができる人物に僕は心当たりがある……そして……この殺気。

 僕の地面に這いつくばりながら、その殺気の持ち主について考える。


 これ僕が悪いの? 濡れ衣じゃないか……。


「正宗、何か言いたいことは?」


 感情のこもっていない冷たい……鬼の声が聞こえてきた。


「何もありません。僕が全て悪うございます。調子に乗ってすみませんでした」


「よろしい」


 僕は理不尽だと思いつつも、怖くて反論はおろか顔を上げることもできなかった。


「正宗、ちょっとあっちでオ・ハ・ナ・シしましょうか」


「は、はい」


 ヒエェェェッ‼ 恐るおそる覗いた鬼神様の御尊顔……笑顔なのにぜんぜん目が笑ってないんですけど。


 

 そして連れていかれた先で……僕は……この部屋、第10層の真の階層主の恐ろしさを身をもって知ることになった。

 


 


 真の階層主に人身御供にされた僕を視界に入れないように、ベースキャンプが用意されていく。

 ダンゴムシのいなくなった大広間は、一定時間モンスターの湧かない安全地帯となり次の階層への前線基地となる。

 

 面白いのが賑やかな女子グループと、お通夜みたいに静まり返った男性グループ。

 

 携帯食を口にする者。装備の点検をする者。筋トレをする者。

 見事にバラバラな男性グループ。

 元々人数も少なく各自がやりたいこと、日課をこなす者といった感じで、とにかくまとまりがない。


 片や、うるさいほどに賑やかなのが女性グループ。

 女が三人寄ればかしましいというけれど……まさにその通り。

 読んで字のごとく女が3つで『姦』とはよく言ったもんだな。

 その姦しい女性グループは、女子会さながらに豪華な料理を広げて無駄話に花を咲かせている。

 その中心となるのは……ルーちゃんだった。

 これには語弊があるかもしれない。

 正確にはルーちゃんを玩具のように扱って盛り上がっているのだ。



 

 階層主様にオ・ハ・ナ・シされた僕は、1人寂しく装備の点検です。

 新しい一振りの黒刀は、素晴らしい逸品だった。

 美しい刃紋から精巧な造りの柄や鞘に至るまで全てが、僕を魅了していきます。

 

 ボッチの僕は1人寂しくし愛刀を眺めています。

 

 ……寂しくなんてないからね。



「もうしょうがないわね。ほら、正宗の分もらってきたから」


 僕の前にペットボトルのお茶と、お皿に乗った料理の盛り合わせがそっと置かれ、階層主から菩薩様へとクラスチェンジした穂香は、そのまま僕と背中合わせしに腰を下ろした。

 

 なぜに背後に座る? ま、まさか……僕を座椅子代わりに使うつもりなのか?

 どんだけ僕を虐げようとするのだろうか、この女は。


「おかわり欲しかったら言いなさいよ」


「……う、うん」


 何なんだこいつは……。


「正宗……」


「ん?」


「強くなったね。昔はあんなに弱虫だったのに……」


「いつの話をしてやがる! そんなの子供のころの話だろ」


「そうね。子供のころは私の方が背が高かったのに、今ではこんなに大きくなって」


「そりゃあ、成長期だからね。穂香こそ色々成長してさ、特にその膨らみとか」


「……もう、その辺は昔と変わんないんだから、正宗のエッチ」


「ほっとけ」


「でも……ホント強くなったよ。あんな巨大なモンスターも真っ二つにできるくらいに。目立たない存在だったくせに、急にカッコよくなっちゃって……まあ、元から……ゴニョニョけどさ」


「どうした穂香? 急にそんなこと言いだして変なものでも食べたか」


 背中越しに大きくため息を吐く穂香。


「やっぱ。馬鹿ね……まあ、今さら変わる訳ないか正宗だし」


「なんだよ失礼なやつだな」


「おかわりは?」


「いる!」


「はいはい。ちょっとまってね」


 何なんだあれ? 変なやつ。 

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