第17話 新・探索者③
「まさか……ここまで実力差があるとはね……」
息を切らして木刀を構える『みやりん』こと実耶華さん。
対するのは涼しい顔をしたケモミミ少女。
英雄と呼ばれるSランク探索者、決して弱いわけではない。
日本でも屈指の剣術家である彼女は、その派手な格好からは予想もつかないほどの実力者であり、魔力を使用しなくとも彼女に勝てる剣術家はそう多くない。
魔力や特殊能力を使えばそれこそ日本一、いや世界一強い実力者と言っていい。
その彼女がルーちゃんに手も足も出ないのだ。
「参った。私の負けよ」
英雄の敗北の言葉に誰かが手を叩き始め、それが修練場中に広がっていく。
「凄い……これが別世界の住人、本当の戦士の姿なのね」
呆然と呟いたのは、同じく英雄と呼ばれる松村さん。
彼女の言う通り、銀髪のケモミミ少女の実力は僕たち人間の域を遥かに超えていた。
「そっちのお姉さんはどうするの?」
ルーちゃんの言葉に松村さんは腕をクロスして首を横に振った。
「悔しいわ。この私が苦汁を飲まされるなんてね……でも、これは世界にとっては良いことなのかしら?」
「でしょうね。ここにはその戦士様の教え子もいるし、面白くなりようね」
「だな。あの坊やも可愛いしな」
「そんなこと言ってると、どこかのお嬢様に怒られるわよ」
「ハイハイ。スポンサー様には逆らえません」
彼女らは笑いながら少年少女を見る。
「戦士の卵か……面白いな。ならば私はその導き手になろう」
スーツを着崩した女性は髪の毛をクルクルさせながらそう呟いた。
◇
学生服に身を包んでいるとはいえ、ルーちゃんは学生ではない。
どちらかというと探索者の指導者の立場にある。
その実力はこの学校のものならば誰もが認める実力者なのだが、その愛くるしい見た目と年齢を考慮して学生服を着ているのだ。
武術や魔力操作のやり方を教える反面、自らもこの世界のことを学ぶ必要がある。
まずは日本語の勉強からだった。
だが、書くことができないのだ。何語かわからない字は書けるが、ここは日本である。日本で生活するなら読書きができることに越したことはない。
しかし、彼女は勉強が嫌いだった。というかじっとしているのが苦手だった。
はっはっは。別世界の少女、いや勇者よ!
共に勉強を教えようとする悪魔の如き魔女に立ち向かおうぞ!
余談だが、勇者とその従者は返り討ちにあい、逃亡を図るもあえなく失敗。世界は闇に包まれたとか……いやあ怖い話ですね。
「何を考えているのですか?」
「いやちょっとね」
「変な正宗様ですね。それより見てください!」
神楽さんに魔力操作のやり方を教えて数日、白くてほっそりした手のひら上に水の塊が浮かび上がった。
「おおっ! ついにできるようになったんだね」
「はい。これもルー様や正宗様の教えの賜物です」
「最初にコツさえつかめば後はその応用だから頑張って!」
「はい。少しでも早く正宗様とダンジョンに行けるように頑張ります」
嬉しそうに微笑む神楽さんは素質があるのだろう。
そして、努力家なのだ。クラスの中でいち早く魔力操作の基礎を身に付けたのは、才能だけでなく努力の賜物なのはいうまでもない。
そして、次に魔力操作の基礎を身に付けたのは、意外な人物だった。
その人物とは、僕の親友である
探索者は女性が圧倒的に多い、クラスの大半も女生徒なのだ。
そんな中でまさか、男子生徒が魔力操作を身に付けるとは思いもよらなかった。
僕も春まではモブだったが、ルーちゃんのおかげで強くなれた。
世の中とは本当に面白いものである。
だがしかし……慎介よぉ。それどうにかならんのか?
いくら魔力操作の練習方法がイメージだからって……その厨二溢れる単語並べるのはどうかと思うぞ……まあいいけど。
親友のそれは、厨二病全開の奇行に走ったものだった。
「炎よ! 赤く染まる炎の聖霊よ覚醒の時は来たれり、燃え盛る業火となりて我が力を示せ! フレイィィィムバーストォォォォオ!」
聴いているこちらが恥ずかしくなる呪文の詠唱、そして手のひらに燻る僅かな火の粉、それはマッチの火どころか線香の火種みたいだった。
しょぼっ! 風が吹けば消えそうな火種……あっ! 消えた。
「どうだ? 俺のフレイムバースト! すげえだろう⁉」
「あ、ああっ凄い凄い」
何が凄いって……それはその自信と痛い厨二詠唱、そしてしょっぼい種火にだよ! ……すげえぜ! お前は漢だ! よくその種火にフレイムバーストと命名できるな。僕にはまねができそうもない。
こいつそのうち「くっ! 沈まれ俺の右眼」とか「右手が疼く」とか言いだしそうだな……いや、きっと言いだすな。
うん。これはそっとしておこう。
イメージは大事だしな。慎介がこれでイメージできるならいいじゃないか。
他人からどう思われようと気にしては駄目だ! この先、様々な苦難が訪れようと自分を貫け! たとえそれが将来黒歴史になろうとも。
僕は応援しているぞ!
だが、僕は戦慄した。
厨二病の真の恐ろしさを……。
そう、厨二病とは感染するのである。
始めは馬鹿にしていた男子生徒に感染し、次は同じ趣味を持つ女子グループへと感染、各自意味不明な詠唱と謎ポーズを決めだした。
そして……恐ろしいことにそれぞれが結果を出し始めたことだ。
そうなってくると、もう彼ら彼女らを止めることはできなかった。
瞬く間にクラスのそこかしこで厨二病的詠唱が流行り出した。
なんでやねん!
「いやはや……これは凄いな……」
「あははははは……」
これには臨時の講師として訪れた英雄様も苦笑いするしかない。
幸いなのは神楽さんだけは、厨二病的詠唱に感染してないことだった……表向きはだけどね。
「これはもしや、言霊かな?」
「言霊?」
「そう、古代より言葉には言霊(ことだま)があり、発した言葉通りの結果が表れる力があると信じられた神秘的な霊力のことです」
そう語りだしたのは松村さんだった。
つまりは、炎や水をイメージして厨二病的単語を並べる詠唱は、イメージをサポートする役目があり、理にかなってると言いたい訳である。
「でも、これは面白い発見です。色々な意味で……くすくす」
「そ、そうですね……」
なんか変なスイッチが入った松村さん。
楽しそうで何よりです。
でも、なんか変なこと考えてませんか? 気のせいですかね?
「あっ、いたいた! おーい正宗君」
僕の名前を呼ぶ声の主を探すまでもなく、その人が駆け寄ってくる。
トレーニングウエアの上にジャージを羽織った女性。
僕はその女性を見た瞬間、ヤバいものを見てしまったと思った。
上下左右に大きく揺れる胸。ジャージのジッパーが上がりきっていないせいもあり、自己主張の激しいそれは僕の股間に直撃した。
「えっと……森口さ…ん?」
トレーニングというより大人の魅力を撒き散らすような装いをしているのは、みやりんこと森口さん。
形の良い二つの膨らみとその頭頂部のポッチ……ん? ポッチ?
……まさか着けていない? どおりで揺れ動くわけだ―――って、ちょっとみやりん。ワザとですよね? なんてことしてんですかあんた。
「あれあれあれ? 正宗君顔赤いけど、どうしたのかな~?」
くっ! やっぱりこの人ワザとやってるな。年下の思春期の高校生を弄んで楽しいですか? 楽しいいんでしょうねぇ……悪魔の微笑みしてますもん。
「それより、僕に何か用ですか?」
「ああ、君の師匠には負けたけど君の実力も見ておこうと思ってね」
「結構です……」
「エ~ そんなこと言わずにヤろうよ~ ね? 一緒に汗ながそ、キモチいいよぉ」
そんな格好して、そんなエロい表情で悩ましいこと言わないでください。
結局、僕は彼女に押し切られるように勝負を挑まれ……
見事にボコられました。
だって、しょうがなくありません? 動くたびに揺れる双丘、ついつい目で追っちゃうのだから。
もうね、こればかりは男のサガです。本能ですので仕方がありません。
「はあぁ、スッキリした!」
だから、言い方ぁぁぁぁ!
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