第2話 初心者ダンジョン②
「正宗…うらやましい奴め!」
「嶋岡! 何か言った?」
「いえ、何でもありません‼」
「ならよろしい」
嶋岡 伸介 こいつのせいで僕は酷い目? にあった。
危うく乳圧による窒息死なる苦しいんだか気持ちいいんだか、わからん死因になるところだったぜ……こんなことしてるからコイツには、いつまでたっても彼氏ができないんだなきっと。
「もう、しゃんとしなさいよね。アンタがだらしないと私が恥ずかしいでしょ」
「はあ? なんで僕がだらしないと穂香が恥ずかしんだよ。関係ないだろ」
「関係あるわよ! と、とにかくアンタはしゃんとしてなさい」
「ハイハイ。気をつけます」
「ハイは1回」
「へ~い」
「……怒るわよ?」
何で? 僕がそこまで言われなきゃならんのだ? つか、なんで春日井姉妹はそんな顔して僕たちのやり取りを見ている?
こんなの幼馴染なら当り前だろ? 見世物を見るように見るんじゃない。見るんなら金よこせ!
そんな折だった。
「た、助けてくれ!」
声のする方を見ると男子生徒が必死の形相で叫んでいた。
あれは3班の田中君じゃないか?
「田中君一人でどうしたの? 班のメンバーは?」
「委員長か……すまん。助けてくれ。じつは――――」
要約すると、田中君の所属する 3班は先生に注意されていた階層移動、つまりダンジョン第二層に下りてしまったと。第二層の方が高額な資源を手にできるチャンスが増えるのは確かなのだが、その分危険も増える。
第二層のモンスターは強さ自体は第一層と変わらないが、状態異常の特殊攻撃をしてくるモンスターがいる。
状態異常の対策ができてないダンジョン初心者が近寄っていい場所ではない。
んで 、3班は初心者にも係わらず第二層に下り、身動きが取れなくなり、田中君一人が逃げるように助けを呼びにきたと。
「しょうがないわね。ほら、正宗助けにいくよ!」
「わ~たよ。行きゃあいいんでしょ」
「そんな訳だから助けに行ってくる。田中君と春日井さんたちは先生に報告を」
「ちょっと委員長。まさか二人で助けに向かうつもりなのか? 無茶だよ! って、話も聞かずに行きやがった。大丈夫かあいつら?」
「なに、あの二人なら心配いらないよ。あいつらなら第二層くらい余裕だろうしな」
「えっ!? どういうこと?」
「田中君は知らないのか? あいつらの噂?」
「噂? あれ、ほんとなのか? だったら、なんでこんな実習受けてんだよ」
「俺がしるか。まあ、救助者はあいつらに任せとけば大丈夫さ。それよりも一応、先生に報告しないよな。ほれ、行くぞ!」
走り去った二人を心配する田中君と、落ち着いた様子の嶋岡と春日井姉妹。
◇
先生が注意してたのに、あいつら欲に目が眩んだな。
気持ちはわかるけどさ……それで自分が怪我したり他人に迷惑かけちゃ駄目だろ。
あれ? 田中君の班って、名門桜ノ浦家のお嬢様である神楽さんがいたはず。
神楽さんは、男子の間で穂香とともにクラスの人気を二分するアイドル的存在。穂香が活発な女子なのに対し、桜ノ浦さんはお淑やかな美人なんだよな。
お淑やかで上品。綺麗で可愛くてお金持ち。そりゃ誰でも憧れるよな。僕にとっては高嶺の花……それが
優等生でお金持ちのお嬢様のいる班が何で第二層に? 欲に目が眩んだんじゃなく、何か別の目的でもあったのか?
「田中君から教えてもらった場所は、この先のはず」
「ああ、あいつらこんなとこまで潜ってたのかよ……」
僕と穂香の二人はダンジョンの第二層にある採取ポイントに向かっていた。
左腕のデバイスで確認すると、確かにこの先に他班のマーカーが表示されている。
だが、同時に通路の先からは叫び声と戦闘音が聞こえてくる。
遠目で見る限りモンスターは 4体。
蛾のモンスターである
土人形が一人の男子生徒に襲い掛かり、その背後には二人の女子生徒がうずくまっている。その側には倒れた生徒の姿も見える。
必死に抵抗する男子生徒も土人形に押され気味だ。
◇ ◆ ◇ ◆
どうしてこんなことに……
優秀な私。
そこでも文武両道、学年でもトップクラスの実力者の優秀な成績を収めている。
私は資源にそこまで執着はないが、一緒になった探索班の皆はレア資源を欲しており、皆のたっての願いにより禁止されていた階層移動を行った。私の実力があればダンジョンの第二層でも十分通用するはずだった。
だけど……現実は厳しかった。このままでは全滅してしまう。
まさか、こんな敵に遭遇するとは……
辛うじて動けた田中君に助けを呼びに行ってもらったけど、はたして間に合うだろうか……支給されたポーションも使い果たした。
身体が思うように動かない……これも上空で飛び回る忌まわしき紫色の蛾のせい。
麻痺効果のある鱗粉が私たちの身体を蝕んでいるせいで思うように動けなくなってしまったからにほかならない。
絶体絶命のピンチだった。
私は死を覚悟した。もしこのまま私が命を落とすようなことになれば、両親はどんな顔をするだろうか? こんな初心者ダンジョンで先走って戦死したなど名門である桜ノ浦家に泥を塗ったと怒るでしょうね。
……ああ……もうどうでもいいことだわ……
「大丈夫か? 助けに来たぞ!」
え!? 私は耳を疑った。田中君が先生に助けを呼びに行ったとしても早すぎる。
「桜ちゃん! 待ってて、すぐ終わるから!」
まさに電光石火だった。二人の男女が現れたと思ったら、あっという間にモンスターを倒してしまった。
あれは、穂香ちゃんと仙道君? まさか、たった二人で助けに来たの?
信じられない……穂香ちゃんが実技が優秀なのは知ってたけど、もう一人……仙道君も穂香ちゃんと変わらず強い。何? あの流れるような動きは? あんなの実技の先生でも真似できないわよ。なんなのこの二人。
でも………尚更……こんな所で死なす訳にはいかない。
「穂香ちゃん! 私たちのことはいいから二人で逃げて!」
私は助けに来たはずの二人に叫んだ。
◇ ◆ ◇ ◆
僕たちは要救助者を発見して、さらにその脅威となっていたモンスターを排除していった。土人形も紫水晶蛾も所詮雑魚でしかない。
僕が土人形 2体を一刀両断し、残りも穂香が一瞬にして片付けた。
うずくまっている女子のうち一人に桜ノ浦さんを発見した。
状態異常に掛かっており、ボディースーツも破れてはいないが土で汚れていた。
表面上ではわかりにくいが、打身や骨折はしているかもしれない。
倒れている女子二人も辛うじて生きているようだが、すぐにでも治療が必要な状況だとわかった。だけどもう大丈夫。敵は排除したし速やかに治療をすれば―――そう思っていたときだった。
「穂香ちゃん! 私たちのことはいいから二人で逃げて!」
「どうしたの? もうモンスターは倒したよ」
「穂香ちゃん、後ろ!」
「え!? 後ろ?」
必死の形相で桜ノ浦さんが何かを訴え掛けてきたものだから、僕と穂香は背後を振り返る。
そこにはダンジョン内だというのに、肌色成分多めの奇抜なファッション姿の男女 3人が立っていた。
見る者を圧倒する巨乳に際どいカットの黒色のハイレグ姿、黒マントを羽織った赤髪の派手な女性。
その隣にはイケメン細マッチョ。衣装はブーメランパンツと首に黒い蝶ネクタイ、顔にはサングラス。
もう一人も素肌にラテン系の民族衣装を着た太めの男。こちらもサングラス。
……街中で見かけたら、お巡りさんに通報しそうなくらいヤバそうな姿の 3人組。
間違いなく HENTAI さんである。
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