春にさよなら

蜜柑桜

前口上

 人の人生とは、ある人にとってはどうでもいいかもしれないが、ある人にとっては実に興味深いもの。

 ようこそ、このお話にお越しくださいました。

 今日はこの僕が、とある人間の人生についてお話ししよう。

 おや、怪訝に眉をひそめている方がいらっしゃる? まあ、子供の僕がこんなことを言ってもピンとこないやもしれません。

 しかし! ここにいらしたということは、多少なりとも他人の物語を覗き見たいという、ある種の欲望がチラと浮かんでいるからではありませんか? ご心配なく。面白いか面白くないかと、いま浮かんだ懸念はほんの杞憂、儚き幻想。人生の一瞬などそんなもの。

 ただし人の生とは面白いもので、そんな一瞬が積み重なれば、記憶から消したくても消えない、貴殿あなたの人生の一部になってしまう。

 思い当たるふしがおありかな? それでは始めましょうか。

 舞台は桜が世界一——と言ってはきっと驕りでしょうが、僕が思うに、世界中でも指折りの桜の名所だと思いますよ。思いついた方、お礼を申し上げます。ええ、ここから東のあの地です。

 時はいまより少し昔。貴殿方あなたがたが見るのは巷で「幼馴染」とかいう男性一人と女性一人。彼らがまだ大人になりきらず、夢追い求めていた頃のお話。

 さて、始まりはどうするかな……そうだ!

 やはりここは、春の「ナツ」からにするとしましょう――

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