第10話 家出
一度ピーがうちの外に出てしまったことがある。
私の部屋と父母の部屋は同じベランダに面していた。鳥かごを私の部屋に置いてからは、洗濯物を干すなどベランダに出入りするときは父母の部屋を使い、居間から父母の部屋へ入る扉はいつも閉めて、ピーが入れないようにしていた。私の部屋のベランダの窓は網戸のある側しか開けなかった。
それなのにある日、部屋にピーがいるとき、うっかり私は網戸のない側の窓を開けてしまった。鳥には走光性があるのだろうか。その一瞬を逃さず、ピーは明るい窓の外へ、私の横をすり抜けて飛び出した。
以前いた青いインコもそうだった。急に外からドアが開き(当時は日中玄関に鍵はかかっていなかった)、小鳥は光に吸い寄せられるようにまっすぐ飛び出していった。
私はとっさに動けず声も出なかった。それが逆によかったのかもしれない。ピーは遠くまでは飛ばず、ベランダの物干しの上にちょこんととまった。もし私があわててベランダに飛び出したり大声をあげたりしたら、驚いたピーは空高く飛び上がっていたかもしれない。私はその場でじっとして、いつもと同じ声にきこえるように「ピー」と呼びかけた。ピーは「ピッピッピ!」と返事をして私の肩に戻ってきた。
その後どうやって窓を閉めたのかよく覚えていない。ほっとして、どきどきした。もしもピーが飛んで行ってしまっていたら。外に出たことのないピーは外からうちがわからない。ヒトの子みたいに甘やかされて育ったピーは、もう森へは帰れない。
ピーはごく小さいときに誰かのところを飛び出したから、元の飼い主はさぞかし胸を痛めたことだろう。あなたの小鳥は今うちで元気にしていると伝えたい。
うちから飛んで行った青いインコも、だれか優しい人の肩にとまっていてほしい。
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