☖2一醉象(あるいは、創成/立ち上る⇔立ち昇る/混沌液上の砂楼閣)
「イデガーでござーる。あ、『香』の『
「マカローニャンは『飛車』だよっ。あえて言うと振る方が得意かなっ」
「ヘペロナは『角』だよっ。あえて言うと『角換わり』が得意かなっ、ってそれ敵方に行っとるやないかーいっ」
「えっと」
緑髪斜に構え男子ツァノンの描写もままならないままに。なかなかに濃いい面子があたしの意向とかは意に介さず、何かに誘引されるかのように打ち揃い始めているよ……それにしても大体その内のふたりくらいが双子のようにカブってくるのは勘弁だよ、認識しづらいよ……
どうやらあたしが再昏倒している間に、話はするすると進んでいたようで。
「……これはこれは。最早、周りがほっとかなくなってるみたいにゃん……これは僥倖、超僥倖……そしてその鷲掴みの度合いをほんの少し緩めて欲しいのにゃん……」
どんどん部屋に入ってくるひとたちに圧倒される度合いと比例して、背中吊り下げから両手でのハンギングへ移行させていた黒猫があたしの指で作った輪っかの中でそんなことをのたまいだすけれど、何の僥倖なのよ。
「以下九名、全てはハカナ殿の手駒でございますれば」
「あ、存ん分んにぃ~、あ、お~つ~か~い~な~す~ぅ~れぇぇ~」
そして歌舞伎っぽいのが一人いると、こちらが喋る間をうまく測れなくて困るのだけれど。ただでさえコミュ力無い側の人間なんだから。そして、
「いよいよ、こちらから討って出る、その刻が来たのです。どうか我々をお導きください、『白の聖棋士』、ハカナ殿……ッ!!」
いちばん話分かりそうだったジェスが、もう何か凄い視野が狭まっていて見ていらんない。青白色にうっすらと光を反射している西洋の全身鎧のような重装備をいつの間にか身に着けていたけど、その蒼い流水のような光を湛えていたはずの瞳は結構見開かれていて結構鬼気迫ってる感が強い。うぅんとりあえず……
「『敵』の情報とか、無いの?」
目の前で揺れている黒猫を直視しつつ、そんな落とした声色にて問うけれど。
「にゃふ……それがし、最初の大元の『世界』設定を創ることは好きなのですが、その後の細かい調整とかデバッグとかが壊滅的に嫌いアンド苦手なのですにゃん……今回は『将棋』をモチーフにした世界と、そこに降ってわいた『混沌』……こと『摩訶★大将棋』要素をブチ込んだところまでは我ながらノリノリでしたにゃんが、その後意外とその『混沌』がカオス走ってしまいまして今や『世界』全土がそのわやくちゃに呑み込まれかけていると、端的に説明するとそんな感じになりますなんにゃぼぼぼッ……!! くくく苦しいですにゃ~」
知らないけど。情報をと。言ったはずでは?
「キミ、猫をいじめるのはよくないだよっ。とにかくうちらと敵対している勢力をツブす。それだけで、いや、それだけが喫緊の課題と、そう言えるんだよ?」
あたしの組み合わせた両の手指から、金色の瞳を白目へとのけぞらせつつ苦しむ猫神を摘まみ上げつつ、飛車か角のどちらかの幼女がそのような分かったような分からないようなことを諭すように言ってくる。そして、
「先ほどのハカナの対局を見ていて感じたんだよ、つまり奴らはちょいと『動き』『利き』が異なるだけの、手の内が知れてしまえばさほど恐れるには足らない存在であるということが、だよ?」
もう一人のつがいのような幼女がこれまたしたり顔で、うんだから? のような事をのたまうのだけれど。もうこちらで与えられた情報を咀嚼するしかない。
「将」殿の命により、「敵」方の根城であるところの北西は「ムルデスタ城」へとあたし以下十名の「隊」で攻め込むと。分かった。納得が早過ぎるかと自分でも驚きだけれど、もう「この世界」における流儀というか「呼吸感」というのは掴め始めている。そしてハッタリを取り戻すんだ、あたし。さっきの対局では最後、大混乱の勢い任せで、さらに感情まで逆巻かせてやっちゃったけど、それも「評価」されたっていうならそれで、とにかく突っ切ってやる。
差し当たって「出立」まではあまり時間も無いそうで、おそらくこの後「将」殿に謁見あって即出発という流れになるだろう。その時に少しでも諸々を「把握」しているというところは示しておきたい。って思って欠けてる情報を埋めようとさっきから聞いているけど、うぅんあたしのコミュ術が拙いのかあまり響いていないんだよ……
飛角金銀桂香歩三兵。「手駒」としては充分だしバランスとしてもこれ以上は望めないほどの布陣、それはいい(ちなみにゼルメダは「金」、ジェスは「銀」の「棋霊」を宿しているとのこと)。それぞれの「駒」としての動きや運用方法、って言っちゃうとあれだけどそういったことは短くも長かったあたしの将棋人生により脊髄レベルにまで叩き込まれている。そこもいい。注意すべきは……
「摩訶大将棋」的な要素、と猫神は苦しげな顔をしながらもそう言った。「古来駒」、曖昧もわっと知ってるくらいだけど、今では考えられないような破天荒な要素があったと思う。それらが「敵」であるということ。未知の、それゆえの留意点。あるいは淘汰されていった「不条理なルール」、そんなのもあったかも知れない。それも要注意。相手方についての情報があれば何でも収集しておきたいけど、この世界のヒトたちも青天霹靂感をみんな滲ませていたし、さしたるものは得られないかも。そこは柔軟に対応していくまでだ。
さらには「ATS」……あたしが名付けたのだけれど、交互に指していく「手番」というものは無く、アクティブに盤上は推移していくということ、一応「指し手」としての「束ねる
そう考えていくと、「仲間」のみんなのことは知っておきたい。うっすら感じていることだけど、それぞれの「性格」だとか「考え方」なんかも明らかに「指し手」には影響及ぼしてるよね……ポカ&ホンタとスゥを比較するとよく分かるけど、同じ「歩」とは思えないほどなんだよなあ……
でも。
そこに考えが至ってふと思う。普通の将棋においての「歩」だって、色々な使われ方があるよね。「突き歩」「打ち歩」「垂れ歩」「継ぎ歩」、「成り捨て」「底歩」とか「焦点の歩」なんかも。攻める・守る、それに適した性質……もっと言うと「資質」みたいなのがあるとしたら……例えば駒の配置は同一の局面だとしても、そこからの展開・形勢は大きく変わってきたりするのかも……やっぱりみんなのこと、知りたい。そう、「駒」としてだけじゃなく、やっぱり「人」としても。こんなにも他人のことを知りたいなんて思ったの初めてくらいかと思ったけど、一人じゃないってことが、こんなにも心強くて安心できるってことを少し分かってきたから。
「みんな、お願いがあるの。みんなの『資質』からまず教えてもらっていい? 戦場では第一に味方お互いのことを良く知った上で行動しないといけないと思うから。もちろんあたしから指示は出すと思うけどそれはあくまで緩い方針みたいな感じで、その場その場での『自分』の判断で即応に動くことがまずは大事と見てる。それに戦場ではおそらく『取ったり取られたり』で自陣敵陣を行ったり来たりするだろうけど、敵方に行った時でも『資質』を理解してたらある程度の対応は出来ると思うから。でもなるべくみんなを敵方に渡すっていうような指し回しはしないつもり。『先手必勝』『一気呵成』の気持ちで最速最善の一手を目指す」
よくまとまらないまま頭の中にある事をどかっと出してしまった言葉たちだったけど、面してた九人一同が一斉に、はわわ、みたいな顔をしたようにあたしには見えた。何でだろ。
「流石は勇者ハカナですにゃおおぉぉん……ッ!! 『資質』ッ!! そいつを分かりやすく『可視化・パラメータ化』した
その何と言うかのいい感じを掻き消すかのように、幼女の腕の中でやさしく撫でられつつごろごろ音を発していただけの黒猫がまたしても金切る感じの高音で分け入りいってくるのだけれど。そういうのを説明しろってさっきから言ってるよ?
【説明しようッ!! 『資質』の種類は大別『5種』ッ!! くふふふ図らずも将棋駒の五角形と同じですにゃね……『
とか思ってたらつらりと説明なのかよく分からないことをまたのたまい出した。うん……ひとつ言えることは無駄にバリエーションが多くてどうなるのかさっぱり予測不能だし、分かったとてそれがどの局面でどう発揮されるかも想定不能だし、どうとでも取れる風にお茶を濁して後付けで色々やれる余地を残してそうな感じが不可避だし、要は不要ッ!!
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