第98話 スピリカ


「売ってる魚も日本と似たようなもんだな。一部ゲテモノっぽいが」

 魚屋で見たらマグロっぽいものや鯛っぽいものなど売っていた。

 なんとなくブラブラとしていると、怒声が聞こえて来た。自分から近寄らないようにしていると、さっきのおばちゃんが押してきて。

「あんた行ってきなさい!」

 いや、さっきあんたが気ぃつけなって言ってたろうに。

「おっとっと」

 おばちゃんに押されて前に出ると、筋骨隆々の男がどうも揉めているらしい。

「さっさと娘を連れて来い!スピリカで沈めるぞ!」

「だからってなんで娘を渡さなきゃならないんだ!」

 まだどっちが悪いのかわからないなぁ。

「お父さん、私が行きますから」

 悪いのは筋骨隆々の男だな!


「おい!なんで連れてくんだ?」

「お前に関係ないだろ!」

 俺は突っかかっていく。

「モテないからって乱暴なやり方が気に食わねえ」

「な、なんだとこの野郎」

「拝み倒してお願いしますって言ったらいいんじゃないかい?」

 おばちゃんの援護射撃が他の人の笑いを誘う。

「て、テメェ!覚えてやがれ!」

「もう忘れた」

 男の顔なんて覚えてられない。逃げて行った男はどうでもいいが、こっちは大変そうだな。

「どうせまたくるさ」

「なんでくるんだ?」

「スピリカの娼婦になれと声をかけてきた」

「は?」

「スピリカがこの街を守ってるのはわかるが、度がすぎている」

「そりゃ災難だな、娼婦はいないのかい?」

「いるにゃいるが、みんな怖がってスピリカには乗りたがらないんだよ」

 あんなのの相手はごめんだろうな。


 どうしたもんかね。

「あんた、こっちだよ」

「なんだ?またおばちゃんかよ」

 おばちゃんに連れられてきたのはデカい建物。『スピリカ海洋産業』と書かれている。

「なんだ、国じゃねぇのかよ」

「ここの親玉はスピリカ一嫌われてんだ、行って話つけてきな!」

「って、さっきから俺、無関係なんだが」

「その格好からあんたができるのはわかるんだよ!さっさといってきなよ!」

「おいおい、またかよ」

 ドアから押されて中に入ってしまうと、さっきの男がいた。


「あ、こいつだよ!さっきはよくも」

「だれだあんたは?俺は物覚えが悪くてね」

 刃物片手に近寄ってくる男共。

「はぁ、刃物持ってるんだから仕方ないよな」

 アイテムボックスからアスカロンを取り出す。

「な、アイテムボックス持ちかよ」

「この人数だ!やっちまえ!」


「って弱すぎるから一瞬だったな。さてどう料理して欲しい?開きか刺身か?」

「わ、悪かった!親分からの指示で」

「どこにその親分はいるんだよ?」

「上の階に」

「あっそ」

 蹴りを入れて意識をなくしてやる。


 上の階にいくとまだ大勢のバカ共がいた。

「まて、上に行くんだろ?行って来い」

 少しはわかる奴がいるみたいだ。

「助かるよ」

「こっちもな」


 扉を開けるとむせ返るような香水の匂い。

「なーんだてめぇは?」

「ちょっとあんたと話がしたくてな」

 勝手に窓を開けて換気をする。

「な、なんて無礼な!わしを誰だと思っとるんじゃ?」

「ただの老害」

「なんじゃそれは?わしの一声でスピリカが火を吹くぞ」

「街に向かってか?ふざけんなよ」

「だれかこやつを叩き出せ!」

「さっさと終わらせるか」

 肥え太った身体に一突き、殺しはしない。

「ウグッ!!」


「結局名前も知らないままだったな」

「そいつの名前はウルグス、これで色々捗る」

 さっきの男が顔を出す。

「あぁ、色々溜め込んでそうだからさっさと探してあんたがトップになるんだろ?」

「頭のいい奴は好きだな。んじゃ探すのを手伝ってくれるか?」


 いやぁ、出てくる出てくる。悪いことはしないほうがいいね。

「これだけ出てくれば死罪は確定だろうな」

「こっちはどうすんだ?国との繋がりのありそうな奴」

「そっちはそっちで使い道がある」

「へぇ、そうですかい」

 縛られたウルグス達は地下の牢屋に運ばれて行った。

「あんた名前は?」

「コタロー」

「俺はウルグスの弟でヘルメスだ」

「へぇ」

「何かあれば来てくれ、助けにはなろう」

「はいよ!」

「で、あたしがママさ」

「あ。おばちゃん、息子の管理くらいしてくれよ」

 さっきのおばちゃんが立っている。

「しょーがないだろ?あんな息子でも自分の息子さね、言ったって聞きゃしない。なら人を頼るのも一つの手さ」

 よく言うわ。椅子にどっしり座っているので、茶と茶菓子を出してやる。

「あんた顔もいいのに気がきくじゃないか!それになんだいこれは?」

「ドーナッツって甘いものだ。俺も疲れたからな」

 向かいに座ってドーナッツを齧る。

「うっまぁー!こりゃ全部私んだよ!」

「一個あれば十分だよ」

 ほんとにガメツイおばちゃんだ。


「あんた本当にいい男だね」

「まーな、おばちゃんに口説かれても嬉しくないけどな」

「ほんと口の減らない子だね」

「おばちゃんほどじゃないよ」

「「あははは」」


「ヘルメス!しっかりやんなよ」

「はい!ママ!」

 ママ呼びかよ。


「んじゃおばちゃん!またな」

「コタローも元気でね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る