睡蓮

@_fly_

第1話

 明け方、白み始めた空に、遠くのサイレンが微かに溶け込む。夢の中に、そのサイレンが違和感なく入り込んでくる。何のサイレン?夢の中で周りを見回すが、何も見えない。そう思っていると、僅かだった音が、突然、現実の窓を震わせ、閑静な住宅街にサイレンが鳴り響く。

 救急車とパトカーのサイレンが、ごちゃ混ぜになって、騒々しさが相乗効果で増す。

 また隣か、とミチは思った。老人施設の近くに住むと救急車の音に慣れてしまう。目覚め足りない耳にも、混ざり合った喧騒が届き、目が覚める。救急車には慣れているが、この辺りに、パトカーがサイレンを鳴らしてやって来るのは珍しい。

 2階の窓のカーテンの隙間から外の様子を窺った。

 3軒隣の家の前に救急車とパトカーが停まって、すぐに後から後から警察車両がたくさんやってきた。

 目覚め直後から動悸がしてきた。救急隊は、なかなか誰も運び出してこない。早朝だが、近所の家からポツリポツリと人が出てきている。

 とりあえず落ち着こうと、コーヒーを飲みに階下に降りた。少し早く目覚めた、ミチの夫、孝太郎が、すでに着替えを済ませて鏡に向かって寝癖を直している。鏡越しに、立花さんちだね、と厳しい表情で言った。ざっと髪を整え終えると、ちょっと見て来ると、玄関を出て行った。

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